私は彼方に手を引っ張られたまま、職員室へ向かった。
職員室の扉の前に立つと一瞬彼方が生唾を飲み込んだかのように見えたけれど、ふと私の方をみてふわりと笑った。
コンコン…
「失礼します…え?」
彼方の表情が一瞬で凍りつく。
「彼方、どうし…」
これが初めてだった。職員室の中の教師全員がいなく、真っ暗な職員室を見たのは今日が初めてだった。
「どういうこと?なんで、誰もいないの?」
だってまだ日は沈みきっていないうえに、空はまだ明るい。
なのに何故だれもいないのだろうか。
私は反射的に、彼方の腕に捕まり、震えそうになる手を必死に誤魔化した。
「静華…一旦図書室へ戻ろう」
「うん」
私はピタリと彼方にくっついたまま職員室を出て、図書室へ向かった。
普通だったらありえないのにな、こんなふうに彼方と2人でいられる日が来るなんて…よくよく考えればこのままでも幸せじゃない?
胸の中がざわつく
自分が自分ではないような気がして、なんだか浮いているみたいな感覚だ。
自分の中の
自分が
何かに
飲み込まれ…て
いく
壊れていくアイデンティティを確かに感じ取った…。