滴る血と涙…
静寂の中、壊れた時計の針がチクタクと行ったり来たりを繰り返している。
力が入りカタカタと震える肩で、君は手に持つ包丁を反対の手で握りしめ、必死に床に押し付け動かないようにしている。
包丁を握りしめる指はだんだん赤く染まり始めていて、小指がすでに落ちていた。今すぐにでも腕ごと切り落としてやりたいほどだったけれど、俺はその場に立ちすくんで動けなかった。
君は言う事を聞かない自分の体に怯えて、それでも小さな声でこう言った。
血と涙が混ざり、薄く赤くなった水は夕日に照らされてより恐ろしく感じられた。
君の頬から、涙か垂れて落ちるたびにその水に小さく水紋を作っていた。
人を愛しただけに、殺したくなるなんて1番苦しいのは君だってわかっている。
ただ純粋に恋をしていたかっただけなのに、この世界は…
「なんて残酷なんだろう」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!