“ボーン”
“ボーン”
「え、何?突然」
いきなり鳴り出した廊下にある柱時計。
動いていたのを見たことすらなかった私達は立ち止まって恐る恐る、まじまじと見つめる。確かに動いている。
「怖っ、急に宇宙と通信始めたみたいに怖いんですけど」
流石に今の状況で、杏の言葉には笑えない。
何か不吉な予感がして私達は固まり、お互いの顔を見合わせた。
「やだ海、すごい顔してるよ?」
「私が凄い顔しているなら空も凄い顔ってことになるのよ?」
双子ならではの2人の会話もなんとも言えず、私は生唾を飲み込む。
「この時計って、動くんだっけ?」
緋色の言葉がこの状況に1番ピッタリだった。
「ううん、確か動かないはずだった。それに動いているの見たことないよ?」
そんなことを話していると、いつの間にか彼方君達を含むグループが私たちの後ろへたどり着き、なんだなんだと戸惑った様子で時計に顔を近づけた。
「え、何でこの時計動いてんの?」
彼方の目を細め怪しむような表情を私はただ黙って見つめた。
「ちょっと、何事ですか??」
イライラとした声、カツカツとかかとを鳴らしランウェイに立っているかのように堂々と廊下を歩いて近づいてくる女性は校長先生だ。
毛先が肩の上に全て揃っていて、眉間に少しだけ皺を寄せている。
猫のようにキッときつい目つきは、何も言わずともわかる。
時計を取り囲んでいた私たちは、さっと退き校長先生の通る道を開ける。
後から校長先生を追いかけるように駆け足でついてくるのは教頭先生。
眼鏡の奥にある優しい目に、おっちょこちょいな性格は校長先生とは正反対で生徒に人気だ。
「誰かこの時計を触ったのですか?」
校長先生の質問に対して、私達は揃って首を横に振る。
「では何故この柱時計は動いているのでしょうか」
私達を疑っているのは丸見え。つい言い返しそうになるのを抑えて私はもう一度首を振った。
校長先生は、はぁと深くため息をついてまたきつい目で私達を見回した。
「いいですか、この時計は代々この学校に受け継がれてきたものです。実は危険な噂があります。以前鏡の七不思議にまつわることで、生徒が複数人行方不明になっているそうです。その時も時計が鳴っていた事からこの時計が関係していると言われています。くれぐれも、触らないように」
それだけ言うと校長先生は踵を返し、かかとを鳴らしながら職員室へ戻って行った。
「君達も早く帰るようにね、さようなら」
教頭先生は優しくそう言うと、きた時と同じように駆け足で校長先生の後を追いかけた。
「何あれ、感じ悪っ」
杏がはっきりと言うのを聞き、私は静かに頷く。
「危険な噂って何?」
「しらねぇ」
彼方はニヤッと笑い言った。
「俺らで確かめてみようぜ、その噂」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。