第37話

第11話 その2
48
2021/05/12 09:04
もう、好きだって気持ちがバレても良いから、とあるお願いをしてみようとした。

「ねぇ鈴木くん……あのさ」

鈴木くんはそのキリッとした細い目で私の方を向き、いつものような鋭い眼差しを向けてきた。

「もう。怖いってその目。そんなに険しい顔しなくても」

「……こ、これが俺のデフォルトだ」

私は鈴木くんにこんなことを言った。


「鈴木くん、今日くらい私の事名前で呼んでよ」

「……は?」

「私の名前知っててくれたよね?」

目の前の大人っぽくてかっこいい鈴木くんに、私は“好き好き光線”を送ってみた。

実は和彩達からこんなことを事前にアドバイスを受けていた。

それが、“あからさま戦法”!
鈴木くんは意外と押しに弱いタイプと見兼ねたみんなが、それくらいの勢いで行かないと逆に効果ないかもよ!と私に伝えてきたのだ。押しに弱いなんてどこで思ったんだろうか。私がそういう鈴木くんの一面を見逃してるだけなのかな?

「そんなの、付き合ってる奴とする事だろ」

「え?」

鈴木くんはソワソワしながら腕を組み、眉間に皺を寄せた。

「俺がお前の下の名前で呼ぶんだろ?彼氏でもあるまいし、それは出来ない」

鈴木くんの頭の中ではどうやら、女子の下の名前を呼ぶ=彼女 という式が成り立ってるみたいだ。なので私はこんな考えをぶつけた。

「ほ、ほら!あれだよ!鈴木くんが窪塚くんを下の名前の恭平って呼ぶでしょ?私からしたらその感覚と一緒だよ!」

「そうなのか……?」

と言って彼は自分の顎に手を添えた。

「うん!それにほら、健吾いるでしょ?彼も彼氏ってわけじゃないけど私の事里奈ちゃんって呼ぶでしょ?」

「いやいや、それはちゃん付けであって呼び捨てではないだろ」

それを聞いてつい反射的に私は

「めんどくさ!」

と返してしまった。

「あ゛?」

そこからはいつもの言い合いが始まった。

「いや、こっちがあ゛?だわ。じゃあ、ちゃん付けなら良いのね?」

「ちゃん付け?お前に?気持ち悪い」

「気持ち悪いってなんだよ!そんな固い考えしか出来ないあんたの方が気持ち悪いわ!もっと柔軟な考え方しろよこの堅物般若」

「コノヤロ…貴様!」

鈴木くんはめちゃくちゃ顔を引きつらせては握りこぶしを作っていた。そんな鈴木くんに私は口をとがらせ、人差し指で鈴木くんの腕の辺りをグリグリしながらこう言った。

「あれー?今日は誕生日のリベンジって聞いてたんだけどなぁ。自分が言ったことを守れない男の人って~、最低最悪だと思うんですよね〜。文化祭で私に、先約はお前なんだから責任取れって言ってきた人のやる事とは思えないんですけど〜」

それを聞いた鈴木くんは、

「あーうるさい!クソ。呼べる時呼ぶ!」

と言って先を歩いて行ってしまった。

「もー!!ちょっと待ってって!!」

彼の頭の中にはエスコートという文字は存在しないのだろうか。



それから暫くして、ドッグカフェにやってきた。鈴木くんは混んでいるお店に並ぶのが苦手そうだなと踏んだ私は、事前にお店に予約の電話を入れておいた。なのでスムーズにお店に入る事が出来た。

お店には看板犬が3匹。

コーギーのハナちゃんと、
チワワのモモちゃん、
ポメラニアンのサクラちゃんが御出迎えしてくれた。可愛いなぁ。どのワンちゃんも癒される。

私がワンちゃんを抱っこしたりして、

「ぐへへへ、可愛いでぢゅね、ぐへへへ」

こうして触っているだけで、鈴木くんからは

「キモ」

と言う声が飛んできた。

「なっ!?」

私がそれに対して目を丸くすると鈴木くんはフッと吹き出した。それから鈴木くんもワンちゃん達を触ったり抱っこしたりして、とても癒されている様子だった。なんて甘い顔をするの?狡いよ。私にもそういう顔をしてよ。

ワンちゃんが羨ましい。もし私がワンちゃんだったら、鈴木くんは私に甘いマスクを向けてくれるのかな。

「なんだ」

「え!?」

無意識に鈴木くんの顔を眺めていたら、そんなことを言われてしまった。

鈴木くんはワンちゃんを床に下ろすと

「俺の顔ジロジロ見やがって」

と言ってため息をついてきた。

「ち、ちが……う……」

もう。出かけ先でもこんな風に接してこられるとさすがに傷付く。なので私は、


「ねぇ、何で私にそんなに冷たいの?」

と尋ねた。案外鈴木くんの胸にそれが刺さったのか、鈴木くんはちょっと優しい声色になり、

「違う……お前だけにというより、俺は誰にでもこうだ」

と返してきた。

「俺はただ下手なだけだ。感情表現が人より上手くない」

「うん、そうなんだろうなとは思ってた。鈴木くんは人見知りなの?」

「人見知りというか……まぁ、そうだな」

鈴木くんの圧はいつも通り強いけど、その中でもこの会話をした時の鈴木くんはどこか、臆病な子供のようにも見えた。

「うーん、そっか」

私はもっと、鈴木くんに打ち解けてもらいたかった。なので私はその気持ちを込めて、こんな話をした。

「私、小さい時から人懐っこかったみたいでね、誰にでも気さくに話してたんだって。幼稚園の時とか、別の友達のお母さんの事を、自分のお母さんの後ろ姿と勘違いして、よく声掛けたりもしてたらしいよ」

「なんだそりゃ」

どこで育って、幼稚園や小学校の時にこんな体験をして、と鈴木くんに対して自分のいろんなことを語った。
私の事をもっと知ったら、鈴木くんは私に対してもっと心を開いてくれるんじゃないかなと思ったのだ。

もしかしたら「もういいよ」と言ってくるかな?とも思ったけど、意外にも飽きずに聞き続けてくれた。

「へぇ、それで?」

と聞いてくれる鈴木くんのその表情は、学校で見ることの無い、柔らかい表情だった。
なんだか今の鈴木くんが、お兄ちゃんっぽく思えた。私にお兄ちゃんがいたら、こんな感じだったんだろうか。

「で、体験学習の帰りの道でさ、テンション上がって思い切り走ってたら、水の深い所に足突っ込んじゃって、溺れかけたんだよね!」

「ははは…お前、昔からドジ田じゃねぇか」

「は?ウザ」

「今も健在だな」

そんな感じで会話をしながら一緒に食事を楽しんだ。相手に自分を知ってもらうことって、大切なことなんだなって思った。
これをする事で鈴木くんが私ともっと距離を縮めてくれるというのなら、可能な限りなんだって話す。

でも、食べ終わったのでそろそろお店を出ないといけない。

気付けば私ばかりが話してたもんだから、鈴木くんの話を全然聞けてないな。夜に鈴木くんの事もいろいろ聞いてみようかな?

お会計に進むと、




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