それは、吉田が俺の家に遊びに来る前の週の土曜日の事。
俺はとある人物からLINEを貰っていた。
「鈴木先輩こんにちは!!大変です!里奈ちゃんが地元で、窪塚先輩とデートしてるの見かけました!!!」
その人物とは、
吉田の後輩の“前田 健吾”の事だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
先日俺は校内で鈴木先輩を見かけた。
たまたまその時は鈴木先輩が1人だったので、俺から声をかけた。
「鈴木先輩」
「……あ、君は……」
「前田です。里奈ちゃんの後輩の」
「あぁ……おう」
それから俺と鈴木先輩は校内の吹き抜けの広場にあるベンチに座ってこんな話をした。
「鈴木先輩、最近里奈ちゃんと一緒にいませんね」
そう、俺は密かに心配していたのだ。
「……そうか?クラスも今は別々だからな」
里奈ちゃんにクリスマスの日に告白してから早くも4ヶ月くらいが経っていた。
俺は里奈ちゃんの気持ちを尊重して、応援する事に決めたのは良いのだが、最近里奈ちゃんと鈴木先輩が校内で一緒にいる所を見かけなくなったので、何かあったのかと心配になっていたのだ。
里奈ちゃんも里奈ちゃんで、俺に気を使ってか、鈴木先輩の話をめっきりしなくなったので、全く状況が分からずにいる。なのでこうして鈴木先輩に話しかけてみたというわけだ。
「それだけなら良いんですけど……」
「…なんだ?」
「あぁ、いや……里奈ちゃんと鈴木先輩、最近一緒にいる所を見ないなって思って、ちょっと気になってただけです」
と俺が言うと、鈴木先輩はこんな事を尋ねてきた。
「君は、吉田のことが好きなのか?」
と。鈴木先輩は人見知りなのか、全然俺の目を見ようとしてこないが、なんだかソワソワしている様子だった。
「……え?」
「いや、すまん。なんとなくそう感じてただけだ」
なので俺は鈴木先輩に正直に話すことにした。
「あぁ、里奈ちゃんの事は確かに“好きでした”」
と言うと鈴木先輩は寝ピクでもしたんじゃないかと思うくらい一瞬にしてガタン!と動き、俺の方に顔を向けてきた。
「なんだと!?」
これを見てすぐ分かった。
鈴木先輩は里奈ちゃんのことが本当は好きなんだなって。
「あぁ先輩!でももう里奈ちゃんにはもうとっくに振られちゃいましたよ。俺も今は吹っ切れてますし、大丈夫ですよ!どうも里奈ちゃんには“他に好きな人がいる”みたいで」
と言うと、
「それ、誰って言ってた?」
鈴木先輩は物凄い眼力で俺の事を見てそう問いかけてきた。
「え?」
「窪塚恭平って言ってなかったか!?」
鈴木先輩はそう言って、俺の両肩を持って揺さぶってきた。里奈ちゃんの好きな人は鈴木先輩だ。なので俺は正直な事は話せない。でも窪塚って人物でないことは確かなので、
「特に言ってませんでしたよ!」
と返した。
「そ……そうか」
鈴木先輩は手を離し、その手を自分の膝の上に置いた。酷く動揺する先輩に俺は言った。
「先輩、里奈ちゃんの事好きですよね?」
でも先輩は、
「バカ!そんなんじゃない!!」
と言って否定してきた。
「いやいや、絶対嘘ですよね?好きだからこそ、里奈ちゃんが今誰を想っているのか気になってるんじゃないですか?」
俺が鈴木先輩にそう返すと、先輩の顔は一気に真っ赤っかになって、
「違う……。最近、俺の友達のその窪塚って奴と吉田がやけに仲良いから……まさかと思っただけだ」
と返してきた。里奈ちゃんから時々鈴木先輩の愚痴を聞くことはあったけど、まさか鈴木先輩がこんなにも恋愛に不器用な人だったなんて俺は知らなかったので、内心かなり驚いていた。だからこそ里奈ちゃんはずっと鈴木先輩への片想いに苦戦していたという事か。
そんな先輩に俺は言った。
「先輩、それを“嫉妬”って言うんです」
「……は!?ば、バカなこと言うな」
先輩はなかなか自分の気持ちを吐き出さない。こんなに里奈ちゃんへの気持ちを認めないのには、何か理由でもあるのだろうか。
でも、里奈ちゃんが今鈴木先輩の事をどう思っているかは分からないけど、あの時の気持ちのままだとしたら、2人は今両想いだ。この恋、なんとかしてあげたい。
それにはまず、鈴木先輩には里奈ちゃんへの気持ちに向き合ってもらう必要がありそうだ。
「鈴木先輩はこのままで良いんですか?」
「は?」
「窪塚さんって人と里奈ちゃんがくっ付いてしまっても良いんですか?」
と、俺が問いかけると……
NEXT▷▶︎▷▶︎その2
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。