第36話

第11話 「特別な日」その1
46
2021/05/12 15:03



「は……?ばあちゃんが倒れた?」



「そう!今は佐渡の病院に入院してるって」



「……そうか」



「拓馬、心配じゃないの?ねぇ、いつまで避けてるつもり?ねぇ、聞いてるの?おばあちゃんに一緒に会いに行こうよ!」






「諒子、もう良いか?電話切るぞ」





「ちょ……ちょっと!」






ブチッ……





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第11話 「特別な日」


私の誕生日から数週間、
私は鈴木くんと予定を合わせ、ついに今度の土曜日に一緒に出掛けることになった。

「ねぇ、その日何でも言う事聞いてくれるって言ったよね?」

と、鈴木くんに目を輝かせる私。

「チッ。なんであんな事言ったんだ俺は」

鈴木くんは私のキラキラ光線から逃げるようにしてそっぽを向いた。

「だからさ鈴木くん、ちょっとはオシャレしてきてよね!」

「は!?」

「鈴木くん、オシャレにキメたら絶対かっこいいはずだもん!それからー、後は何かなぁ」

「今お願いしてくるのは反則だ。俺は“その日に”何でも言う事聞いてやるって言ったんだ。今日はその日外だ。分かったら席に戻れ」

と言われ、鈴木くんの席まで来ていた私は追い払われてしまった。


「このケチ強面冷酷般若め!」



鈴木くんから離れた所で小さくそう呟いた。





それから土曜日。

鈴木くんとの待ち合わせ場所にやって来た。

今日の為にめちゃくちゃオシャレしてきちゃった。

私の今日のコーデは、チェック柄のコートの下にデニムのショートパンツと黒のレースアップを着て、黒のショートブーツを履いて、赤いベレー帽でアクセントを付けた。
鈴木くんの好みに合うといいな。

髪も学校の時よりも多めに巻いて、メイクも上出来だ。

鈴木くんはどんな格好で来てくれるかな?

オシャレな場所に行くんだから本気出してよね!くらいに言ってしまったけど、鈴木くんからしたらそれはストレスに値する言葉だったかな?


ちなみに、今日のデートのコースは鈴木くんではプランを決められないって事だったので、私が全部決めた。

まず、午前中はショッピングモールでお買い物。その建物の中にドッグカフェがある。犬連れじゃない人でも入れて、お店の看板犬達と戯れる事が出来るそうだ。そこでお昼ご飯を食べた後は、近くにあるアートアクアリウムが楽しめるイベント会場に行く。そこを出た後は、内装のライトアップが綺麗な、オシャレなバイキングレストランに行って終了だ。

私の行きたい所を選んだとはいえ、鈴木くんは生き物ラブ人間だから、鈴木くんがつまらなくならないように、生き物に関わる行き場所を選んだ。

待ち合わせ時間は10時にこの駅の改札を出た所の時計台。

鈴木くんが来るのが待ち遠しい。

動物園の時と比じゃないくらいにドキドキしている自分がいた。


鈴木くん、まだかな……。



その時、改札の中からスマートに歩く長身の男性が見えた。



かっこいい人。



鈴木くんもあんな風にかっこいい服を着こなして来てくれたら……



と思って何となく見てたら、




それこそが鈴木くんだった。



「へっ?」



びっくりした。鈴木くんはロング丈の黒のPコートをはためかせながら、こちらに向かって歩いてきた。


彼、本当に同い年だよね?と思ってしまうくらい大人っぽくてかっこいい。


「すまん。待たせた」


とはいえ、鈴木くんの到着時間は10時より5分も前だ。

「ううん!」

私は首を横に振った。


Pコートの中は白のTシャツの上にグレーの厚手のVネックカーディガンを合わせ、ネイビーのスキニーパンツに黒の革靴を履いていた。髪にもワックスが付けられ、スタイリッシュにキメていた。


鈴木くんの本気コーデ、狡すぎです。


「鈴木くん……今日、かっこいい」

「けっ。朝からタンスの中身ひっくり返してこっちは大変だったんだからな」

と言って、耳の上あたりを掻く鈴木くん。
その時に腕からさりげなく、ゴールドの細いブレスレットが見えた。

何?そのさりげなく見える感じ。私はますますそんな鈴木くんのコーデに魅了された。

「行きたい店はどっちだ」

「あぁ、あっち」

私はショッピングモールのある方向を指さして、一緒に歩き出した。

私はさっき鈴木くんに対してかっこいいと言ったけれど、鈴木くんは今日の私を見てどう思ったんだろう。
でも、今日の私どう?なんて聞くのはさすがに子供っぽくて引かれちゃうかな?

そう思ったら、鈴木くんにその質問を投げることが出来なくなり、完全に聞くタイミングを失った。


「鈴木くん、こういう服似合いそう!」

「は?」

「ねぇ、着てみてよ!」

「面倒だ。断固拒否する」

一緒に服を見ている時、鈴木くんに試着を促すも拒否されるし、なんだかいつもと変わらない。それに、話が違うじゃないか。

「鈴木くん、何でも言う事聞いてくれるって言ったよね?」

そう。これは今日の魔法の言葉だ。面白いくらいに鈴木くんはこの言葉に反応し、ピタリと反論を止めるのだ。

「あぁ、はいはい分かりましたよ」

と言って鈴木くんは私が着てみてほしいと言ったものを全て試着してくれた。鈴木くん、スタイル良くてかっこいい。





そんなかっこいい鈴木くんに、
ギュッて抱き締められたいな。

「里奈ってこんな細いのな。可愛い」

「やだ♡鈴木くんが逞しくて大きいだけだよー!」






……とまぁ、こんな事妄想したところで何も起きないけどね。

「赤いセーターも良いね!似合ってる!鈴木くん、なんでも合うね」

「……言い過ぎだろ」

鈴木くんは私の今の言葉になんだか照れているようだった。本当にちゃんと自分の言った事を律儀に守ろうとしてくれる。

それなら……


もう、好きだって気持ちがバレても良いから、とあるお願いをしてみようとした。





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