第21話

第7話 その2
49
2021/05/08 04:42
そんな中、窪塚くんはただ一言だけ最後にこう残した。



「ただ言える事は……今のアイツは人間不信だって事。相手の事だけじゃなくて、自分自身の事さえも信じる事が出来ない、そういう奴なんだ」





それを聞いて、ガラスがパリン……と割れたような、そんな衝撃が心の中に走った。

「里奈ちゃん、長くなっちゃうからその事はまた今度」

窪塚くんは、切ない笑顔浮かべ、私を教室から送り出した。



鈴木くんが人間不信?


ねぇ、どういう事なの?



なんで私、鈴木くんのこと何も知らないの?



悔しい。


凄く悔しい。


なんでもっと前に鈴木くんと出会える事が出来なかったんだろう。


私は次の授業の内容が全然頭に入らず、鈴木くんの事だけがただずっと頭の中をループしていた。


鈴木くん…



鈴木くん……



私、もっとあなたの近くに行きたいよ。



私は必死で近付こうとしてるのに、それでも距離が縮まっていると感じなかったのは、そういう事?それは、あなたが人間不信だからってことなの?

こんなの…一生くっつくことの無い、同じ極の磁石同士みたいじゃない。


もっと私から積極的になるべき?とも思ったけど、それが仇になる場合もある。私は鈴木くんに対して、何をするのが正解なの?
鈴木くん。教えてよ。


結局、正解を見出す事が出来ないまま、その日から数週間が経ってしまい、今度は乙守高校の文化祭が近付いてきた。
うちでは今、文化祭実行委員を筆頭に、何の出し物をやろうかと案をクラスみんなで出し合っていた。

その中で1番票が今の所多いのがお化け屋敷と謎解きカフェ。この2つのどっちかをやろうって所まで絞る事が出来ている状況。
私は知っての通り、ホラーは苦手なのでお化け屋敷はやりたくない……。まぁ、出店側だとまた違うのかもしれないけど。

するとその時、クラスの中でこんな意見が上がった。

「もしお化け屋敷に決めるとして、鈴木がお化け役とかやったら凄くハマりそうじゃね?」

「確かに!鈴木くん、迫力出そう!」

クラスの数人が、鈴木くんが本気でお化け役をやったら、凄く迫力のあるお化け屋敷が作れそうだと案を出し始めたのだ。もちろん、クラスのみんなは鈴木くんを貶してるとか、イジメでそんな事を言っている訳では無い。
単純にうちのクラスは、クラス全員で自分達のクラスにしか出来ないことをやりたいと、必死こいて案を出しているだけなのだ。

「鈴木!イイじゃん!お前がフランケンシュタインとかさぁ!」

と篠山くん。

「は!?」

でも鈴木くんはこの通り却下モードだ。
そんなこんなで今日のHRの時間が終わり、この話し合いは別日のHRでの話し合いの時間に持ち越された。

鈴木くんは前に出て行くようなタイプではないから、こういうのはあんまり乗る気にならないのかもしれないな。


その日の放課後、掃除を終えた私は、今日はバイトも無いので真っ直ぐ帰ろうと思った…が、そうだ。帰りにマロンのお菓子を買って帰ろうと思っていたんだ。
その時、ふと鈴木くんのバイト先が頭にパッと浮かんだ。何を思ったのか、家とは逆方向なのにも関わらず、本当に鈴木くんのバイト先の入っている、大型スーパーまでやって来てしまった。しかも今日は、窪塚くんはいない。

何やってんだ私。鈴木くんが今日シフトなのかさえ分かってもないのに。

鈴木くんは今日は掃除当番の班じゃ無さそうだったので、シフトなんだとしたらもう居るはず…。

でも、鈴木くんらしき人はペットショップのフロアにいない。

残念。今日はお休みだったのかもしれないな。

なんてしょんぼりしていると、



「え!?」



鈴木くんが目の前に現れたのだ。彼の手にはラビットフードが。単純に買い物に来ていただけだったのかも。

「な、なんでドジ田がここにいんだ」

「えええ?たまたま通りかかったというかぁ」

「は?」

と、誤魔化すも、無駄に記憶力の良い彼に、

「お前、前に俺の家来た時方面逆だって言ってたじゃないか」

と言われてしまったので、その嘘は全く通用しなかった。ヤバい。じゃあなんて言おう……私はただ、鈴木くんが居ないかなって思ってここに来ただけだったから、他に理由なんて思い浮かばなかった。

「ダメなの?来ちゃ」

「いや、そういう訳じゃ……」

その場でお互いに沈黙していると、そこへ鈴木くんのバイト先の後輩の女の子がやって来た。

「鈴木先輩!来てたんですね!」

「あぁ」

「あ!もち子ちゃんのご飯ですね?」

「そうだ」

鈴木くんはその女の子との会話を始めてしまったので、私はソロりとその場を抜け出し、レジへ向かってマロンのお菓子のお会計を済ませた。気持ち的になんかモヤモヤしたままだけど、今日はもう帰ろう。



そう思ったのに、




「ドジ田」


「え……?」



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