そんな中、窪塚くんはただ一言だけ最後にこう残した。
「ただ言える事は……今のアイツは人間不信だって事。相手の事だけじゃなくて、自分自身の事さえも信じる事が出来ない、そういう奴なんだ」
それを聞いて、ガラスがパリン……と割れたような、そんな衝撃が心の中に走った。
「里奈ちゃん、長くなっちゃうからその事はまた今度」
窪塚くんは、切ない笑顔浮かべ、私を教室から送り出した。
鈴木くんが人間不信?
ねぇ、どういう事なの?
なんで私、鈴木くんのこと何も知らないの?
悔しい。
凄く悔しい。
なんでもっと前に鈴木くんと出会える事が出来なかったんだろう。
私は次の授業の内容が全然頭に入らず、鈴木くんの事だけがただずっと頭の中をループしていた。
鈴木くん…
鈴木くん……
私、もっとあなたの近くに行きたいよ。
私は必死で近付こうとしてるのに、それでも距離が縮まっていると感じなかったのは、そういう事?それは、あなたが人間不信だからってことなの?
こんなの…一生くっつくことの無い、同じ極の磁石同士みたいじゃない。
もっと私から積極的になるべき?とも思ったけど、それが仇になる場合もある。私は鈴木くんに対して、何をするのが正解なの?
鈴木くん。教えてよ。
結局、正解を見出す事が出来ないまま、その日から数週間が経ってしまい、今度は乙守高校の文化祭が近付いてきた。
うちでは今、文化祭実行委員を筆頭に、何の出し物をやろうかと案をクラスみんなで出し合っていた。
その中で1番票が今の所多いのがお化け屋敷と謎解きカフェ。この2つのどっちかをやろうって所まで絞る事が出来ている状況。
私は知っての通り、ホラーは苦手なのでお化け屋敷はやりたくない……。まぁ、出店側だとまた違うのかもしれないけど。
するとその時、クラスの中でこんな意見が上がった。
「もしお化け屋敷に決めるとして、鈴木がお化け役とかやったら凄くハマりそうじゃね?」
「確かに!鈴木くん、迫力出そう!」
クラスの数人が、鈴木くんが本気でお化け役をやったら、凄く迫力のあるお化け屋敷が作れそうだと案を出し始めたのだ。もちろん、クラスのみんなは鈴木くんを貶してるとか、イジメでそんな事を言っている訳では無い。
単純にうちのクラスは、クラス全員で自分達のクラスにしか出来ないことをやりたいと、必死こいて案を出しているだけなのだ。
「鈴木!イイじゃん!お前がフランケンシュタインとかさぁ!」
と篠山くん。
「は!?」
でも鈴木くんはこの通り却下モードだ。
そんなこんなで今日のHRの時間が終わり、この話し合いは別日のHRでの話し合いの時間に持ち越された。
鈴木くんは前に出て行くようなタイプではないから、こういうのはあんまり乗る気にならないのかもしれないな。
その日の放課後、掃除を終えた私は、今日はバイトも無いので真っ直ぐ帰ろうと思った…が、そうだ。帰りにマロンのお菓子を買って帰ろうと思っていたんだ。
その時、ふと鈴木くんのバイト先が頭にパッと浮かんだ。何を思ったのか、家とは逆方向なのにも関わらず、本当に鈴木くんのバイト先の入っている、大型スーパーまでやって来てしまった。しかも今日は、窪塚くんはいない。
何やってんだ私。鈴木くんが今日シフトなのかさえ分かってもないのに。
鈴木くんは今日は掃除当番の班じゃ無さそうだったので、シフトなんだとしたらもう居るはず…。
でも、鈴木くんらしき人はペットショップのフロアにいない。
残念。今日はお休みだったのかもしれないな。
なんてしょんぼりしていると、
「え!?」
鈴木くんが目の前に現れたのだ。彼の手にはラビットフードが。単純に買い物に来ていただけだったのかも。
「な、なんでドジ田がここにいんだ」
「えええ?たまたま通りかかったというかぁ」
「は?」
と、誤魔化すも、無駄に記憶力の良い彼に、
「お前、前に俺の家来た時方面逆だって言ってたじゃないか」
と言われてしまったので、その嘘は全く通用しなかった。ヤバい。じゃあなんて言おう……私はただ、鈴木くんが居ないかなって思ってここに来ただけだったから、他に理由なんて思い浮かばなかった。
「ダメなの?来ちゃ」
「いや、そういう訳じゃ……」
その場でお互いに沈黙していると、そこへ鈴木くんのバイト先の後輩の女の子がやって来た。
「鈴木先輩!来てたんですね!」
「あぁ」
「あ!もち子ちゃんのご飯ですね?」
「そうだ」
鈴木くんはその女の子との会話を始めてしまったので、私はソロりとその場を抜け出し、レジへ向かってマロンのお菓子のお会計を済ませた。気持ち的になんかモヤモヤしたままだけど、今日はもう帰ろう。
そう思ったのに、
「ドジ田」
「え……?」
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。