第92話

リクエスト企画「甘い果実酒と甘い彼」
76
2021/06/04 14:57
リクエスト

鈴木が里奈に甘えて、里奈が鈴木を揶揄う…みたいないつもと逆パターンのお話がみたい‼️

というリクエストを頂きましたので書いてみます✨

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「甘い果実酒と甘い彼」



付き合い初めて半年が経ち、春になった。

ある日の金曜日。今日は2人で私の家でまったりしていた。珍しく拓が私の家に泊まりに来ているのだ。

私の今週のお休みが金土。拓は土日休みなので、今日は仕事終わりに来てくれた。

夕飯を食べ終え、2人してお風呂を済ませた後の今はいつもの至福の時間。ソファに座ってテレビを見てお酒を飲んでまったり。
私は拓の肩に寄りかかり、手を繋いだ。

でも、最近思う事がある。

付き合ってきた中で、彼が私になかなかしない事。それは“甘える事”だ。

彼が甘えると言ったら、寝ぼけた状態で会話をする時くらい。でも、そんなのあんまり見せないし、それ以外は全部私の甘えの受け身だった。

料理関連の事で私に時々「教えてくれ」とか「助けてくれ」とかは言うけど、私のして欲しい甘えはそうじゃなくて、

例えば拓から私に肩に寄りかかってくれたり、膝枕頼んできたりとか、そういう甘えだ。

でも、私は彼の育ちを知っている。お母さんを早くに亡くして、甘える事が出来なかった拓は、人に甘える事が下手くそなだけなのだ。前に私が彼が熱を出して看病しに行った時に、なんとなくそんな話をして、甘えたいけど甘えられる相手がいないっていう、彼の複雑な心境を知った私。でもその日以降彼がどっぷり私に甘えて来たことは殆ど無い。
その話をしたのはもう5年以上も前のこと。甘えに対しての価値観だって変わってるだろうし、それに多分、拓はプライドも高めなので、「男だから」っていうのを感じて甘えないようにしているのかもしれない。

でも、私としては、いつも私が拓に甘えてばかりだったので、たまには……とも思っていた。

だから私は言った。

「拓もたまには私に甘えてよ」

と。でも拓はフッと笑って首を傾げながら、

「俺は甘えてるつもりだけどな」

と言った。

「え……どこが?」

私は目が点になった。

「いや、してるだろ。今日だって里奈の家に泊めさせてもらうし、たまに新品の調味料の銀紙が剥がれないからって里奈に託したり、ついでに買い物を頼んだりもするし、ネットで頼んで届いた物のパッケージ開けるのに苦戦して、里奈に開封頼んだりも時々するだろ?結構甘えてるじゃないか」

どうやら彼と私の“甘え”の捉え方は全然違ったようだ。確かにそれも甘えの1つなのかもしれないけど、私が言いたい甘えとは違う。

「拓、そうじゃないよ」

「え?」

私は、拓が昔熱を出した時に私が看病に来た時の事を伝え、

「私が言ってるのはそういう事!それに、たまーにあるけど、寝ぼけた時の拓なんて、凄くくっ付いて来てくれたりするし、めちゃくちゃ可愛いんだよ!」

と言った。

「可愛いとか言うな。なんか寒気する」

ちなみに拓が甘えるときは拓本人は寝ぼけている訳なので、甘えている最中の自分の行動に関してはそんなに覚えていないのだそうだ。

「男の人相手にだって可愛いは使うんですー!!」

「はいはい。そうですか」

と拓は私の言葉をあしらってくる。

「もう!絶対分かってないじゃん!寄りかかったり、抱き着いたり、腕枕してもらったり、私はそういう事たくさんしてもらってるけど、拓って私にそういう甘え方してこないでしょう?」

「ん?お前はなんだ?里奈が俺に腕枕をしたいのか?」

「いや、そうじゃないわ!!」

「え?じゃあくっ付いて欲しいのか?」

と言って拓は私の肩にゴツン!と寄りかかった。そこには全然愛を感じなかった。やらされてる感が満載だ。

「そんなただくっ付くだけの行動は甘えには入らない!」

と言って私は拓の頭をポンと突き返した。

「は?もう、何が言いたいか分からん。里奈は何を求めてるんだ?」

あまりにも理解してくれない拓に、

「もう。なんで分かってくれないの?そんなに私難しい事言ってるかな?」

とつい苛立ちをぶつけてしまった。

「悪いな。俺はそういう所には疎いんだ。お前だってそれは重々承知してるだろ?」

「そうだけど……。拓自身が分かろうとしてないから理解できないだけじゃないの?」

すると拓は私のその言葉に眉をピクっと動かす。

「は?俺が悪いって事か?」

なんて、軽く言い合いになってしまった。
暫く言い合いをしていたら、

「女って分かんなっ」

と言ってきた。

だから私はそんな彼にこう言い返した。

「会いたいって言うのだって、私じゃん。それに………エッチしたいって言うのだって、だいたい私じゃん」

拓は眉間に皺を寄せ、険しい表情になる。

「待てよ。俺がお前に会いたくないのに会ってるとでも?それに、する時はほら……流れでそうなる時もあるじゃねぇか。やめてくれるか?俺がまるで里奈にちっとも会う気もなければする気もない奴みたいじゃないか。こんな事言われると気分悪い」

拓はそう言って、グラスに注がれていた白ワインをグイッと1飲みした。

「ごめん……。ちょっと言い過ぎた。でも別にそうとは言ってないし、そこまでは思ってないよ。ただ私は、私だけが拓に甘えっぱなしで、実はそれがワガママに聞こえてしまって、拓の負担になってたりしても嫌だし……。だからお互いにバランスよく甘え合うことが出来たら良いなぁ…って思っただけなんだよ。それに、その方が私も不安にならないし」

「俺は十分甘えてるつもりだ。それに、男がそんな彼女にベタベタするとかキモイだろ」

「そんな事ないよ」

でも拓は首を横に振る。

「確かに高校3年の熱出した日の俺は、お前にたくさん甘えたよ。シチュー食いたいとか、帰るなとか言ってな。母さんがいなくなってずっと甘えられずにいて、気付いたら人に甘えなくなってたけど、だからこそあの時里奈が来てくれた事が嬉しくて、それには感謝してるよ。時には甘えてみても良いんだなって思えた。だから俺なりにそうやって里奈に頼み事したり、助けて貰ったり、そうやって甘えてみるようになった。調味料開けてくれとか、里奈にとっては小さいことかもしれないけど、これは俺の中でもかなりの進歩なんだ」

「拓……」

彼は続けた。

「人の中での甘えの価値観は違う。俺が甘えてるって言ってるんだからそれでいいじゃないか。 それに俺は、里奈が甘えてきてくれる事をワガママって捉えた事はないし、負担にもなってないから安心してくれ。むしろ嬉しい」

と言って頭を撫でてくれた。

「なぁ里奈?会いたいって言い方をしてないだけで、普段俺がLINEで『来週の金曜空いてるか?』とか聞いたりするだろ?その誘いが俺にとっての“お前に会いたい”っていう意思表示だ。会いたくないなら正直にそう言ってるよ」

彼は不器用で素直じゃないだけ。それは分かっていたけど、やっぱり私としては、そういう気持ちを分かる言葉でたくさんもらったりもしたかったのだ。
でも、彼には彼のやり方がある。私の価値観を彼に押し付けるのは違う。

彼が十分私に甘えていると言うのなら、もうこれ以上は彼に求めるのはやめよう。


そう思った私は、彼への反論をすることは無くなり、この話はこのまま終わりとなった。


甘えの形は人それぞれなんだ。
私もダメだな。もっと自分の価値観の袋を広げていかないと。これは私の反省点だ。
イチャイチャする事だけが、会いたいとか言葉にする事だけが甘えとは限らないんだ。

なので、彼とこの話をしてからは、

「すまん、ラップがくっ付いてしまって剥がれない……やってもらえないか?」

とか、そんな事を頼まれる度に、

「はいはい!もー、不器用ちゃんめ」

なんだか嬉しく感じるようになった。




そんなある日の事。今日は果実酒を持って彼の家に泊まりに来た。

「みかん酒か。へぇ、美味そうだな」

「気になって買ってきちゃった!」

夕飯とお風呂の後、2人でソファの所でグラスにそのお酒をついで飲んでいた。

「甘っ!でも美味い。好きだ、こういうのも」

「ね!飲みやすいよね!」

その後、まさかの出来事が起きた。



いつも私よりお酒に強い拓が、先に酔ったのだ。どうも、ジュースのように甘いお酒だと彼は回るのが早いみたいだ。

すると、彼は私に抱き着いてきて、

「里奈、可愛い」

と言ってきた。

「なっ!!拓!?」

拓はそう言った後、私の耳を柔らかく噛み、スっと舐めてきた。

「あんっ……くすぐったい……」

彼にこんな事されるのは初めてだった。

「何今の声。可愛い」

そんな言葉をあなたのその低い声で言われたら、ドキドキするよ。

彼は再びお酒に手を出し、グラスいっぱいに注いで飲み出した。

「ねぇ、私のグラスにも入れてよ!」

私がグラスをスっと彼の方に差し出すと、

彼はなんと、


「んっ!!」


口移しをしてきたのだ。



「甘い……?」


ドキドキした私は、首をただただ縦に振り、顔を真っ赤にした。

甘いのは、あなたの行動の方だ。


急に甘えん坊になった彼に戸惑う私だったけれども、なんだかんだで嬉しかった。

彼はずっと私の手を握り、私の肩に寄り添って来たり、抱き着いてきたりして、とっても可愛い。

普段、私の事を揶揄ってきたりするような彼からは考え付かないような状態だ。

和彩や恭平くんがこんな彼の事を見たら、ビックリするだろうな。


でも、他の人には見られたくないな。


こんな拓を見れるのは、私だけの特権でありたい。
なので私は彼にこう伝えた。

「たーくん、他の人の前でこんなに酔っちゃダメだからね?」

「酔わないよ。里奈だったから飲んだんだよ」

「え?」

拓は照れ笑いを浮かべながら、

「途中から気付いてたよ。酔い回るの早ぇなって。でも、良いや。今日の相手は里奈だからって思って、飲んじゃった」

と言うのだ。そんな拓が愛しすぎて、胸がキュンとなった。

「大丈夫だよ里奈。他の奴にこんな所見られたら、笑いもんにされるだけだ。特に恭平の前では絶対にならん!」

「恭平くん、暫くネタにしそうだもんね」

「だろ?めんどくせー奴だからな」

拓はそう言ってグラスに注がれたみかん酒を全部飲んでしまった。720mlも入っていたビンの中身も残りわずかだ。

「拓、お水いる?」

と聞いてみたが、拓はいらないと言って首を横に振った。

それから急に、拓はこちらに体を向け私の肩に額を乗せてきた。“肩ズン”というやつだ。

「少しだけこうさせて?楽なんだ」

なんて甘えてきた。

「何よ。さっきまでなんの許可もなく抱き着いてきたりしてたくせに」

と言って私は彼の髪を撫でつつ、ちょっとだけ彼を揶揄ってみた。

「ごめん」

なんて言う彼の声はか弱くて、それでいて手探りで私の手を握ってきた。全然いつもと違う。こんな新しい彼の姿をもっと見ていたいし、もっと発見していきたい。

「もう、こんなに酔っちゃったら明日の朝には記憶無くなってるかもしれないね!」

と言うと、

「ヤダ」

と返してきた。

すると彼は、私の目を見てこんな事を言った。



「里奈と一緒に過ごした時間を、1滴足りとも零したくないから」







それは凄く真剣で、とても真っ直ぐな眼差しだった。


「人間は1日経つと昨日の事を8割忘れるらしい。だから実際問題全部の事を覚えているのは難しいかもしれないけど、俺は常にそれくらいの気持ちで里奈のそばにいる」

「えっ……?」

「それ程俺は本気なんだ。里奈に」


彼はこんなにも素敵な言葉を私に伝えてくれ、私に優しくキスをしてくれた。

お酒の力を借りたからこそ伝えられた言葉だったと思う。でも、今の言葉たちは絶対に彼の本心に違いない。彼は例えお酒が入っていたとしても、デタラメでそんな事を言えるような人じゃない。私はそう信じてる。
きっと普段はこういう事を、恥ずかしいがり屋だから言えないだけなんだよね。

「私もだよ。拓の事、本気で好きだよ。拓がこんな事言ってくれるの、嬉しい」

拓は私にギュッとくっ付いて、

「俺、ずっと里奈とこうしてたい」

と言った。可愛い。本当に可愛い。
こんなに甘えて貰えるとニヤニヤさえしちゃうよ。

「たーくん可愛い。大好き!あーもー!かーわーいーいー♡」

「俺を揶揄うなよ…」

と、拓はシュンとしたような様子で私を見つめてくる。いつもなら「黙れ」とか言ってきそうな拓なのに、今日は全然違った。

「揶揄うなんてとんでもない!たーくん、本当に可愛いんだもん。こんなにくっ付いてきてくれるなんて、赤ちゃんみたい!」

彼はフッと笑い、

「バブーってか?はは。随分でっけー赤ん坊なこった」

と言った。それから何をするかと思えば……


「俺、赤ちゃんなんだろ?」


「へっ……?」


「そろそろ“母乳”の時間だ。里奈、ちょうだい?」



と言って、彼は私の服を捲って手を忍ばせて胸に触れてきた。






そんな大胆な彼も、私は大好きだ。

その後、彼は止まることを知らず、私は彼と熱い夜を過ごした。






次の日、一緒に朝食を食べながら、なんだか小っ恥ずかしい様子で私と会話をする彼。

「なぁに?なんかソワソワしてない??」

「してねぇよ!バーカ!」

「いや、どう見てもしてんじゃねーか」

そのまま彼の事を掘ってみると……





「昨日の自分に吐き気がするだけだよ」




と言った。


あぁ。彼、本当に覚えてるんだ。


ーー里奈と一緒に過ごした時間を、1滴足りとも零したくないから


この言葉通り、本当に忘れないでいてくれたんだ。

自分の行動を振り返り、なんとも言えない顔をしている目の前に座る彼を見て、私は笑いが零れた。

「あー面白い!!恭平くんに今度話してあげよーっと!」

「いや、マジでやめてくれ……」

「嘘だよー!」

「タチ悪いなお前」

そんな話をしながら笑い合う私達。





今度はまた別の種類の果実酒を買って来ようかな。







fin.

鈴木が里奈に甘える回、いかがでしたか??✨リクエスト頂いたユレンさん、ありがとうございました‼️

里奈が鈴木に甘える…ならいくらでも書けたんですけど、鈴木となると難しいですね!‪w‪wでも、書いてて楽しかったです✨

ご希望に添えられましたかね??
感想お待ちしてます🥰

皆様、リクエスト等ありましたらお申し付けください❕❗️

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