第94話

「私達の形」
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2021/06/10 08:48



高校の時、


俺はとある女の子に出会った。



吉田 里奈。



素直で真っ直ぐな彼女は、クラスの中でもどちらかと言うと目立つ方で、いつも彼女の周りには友人で溢れていた。


教室の隅にいるような俺とは真逆。


正直な所、彼女の事は内心ずっと 可愛いなと思っていた。俺のタイプの女の子ではあったけど、


ああいう子とはこの先関わる事なんて無いんだろうなと思っていた。


けど、林間学校でたまたま夜のナイトウォークのペアになり、そこから次第に彼女と関わる事が増えていった。


接してみると、思っていた以上に素直で真っ直ぐで、それでいて意外と根性があって、ド直球に来るタイプ。世話焼きな面もあって、兎に角、とても温かい人だった。



俺は小学生の時に自分の不注意で、女手一つで俺を育ててくれた母を交通事故で亡くし、その後過ごした佐渡ヶ島の母親の実家でも“アイツが殺したんだ”と陰口を叩かれ、完全に心を閉ざしていた。


俺が心を開いていたとするならば、小学校からの親友の恭平くらいだった。




俺は母親殺しの最低な人間。生きるのが本当に辛くて、笑う事さえなかなか出来なくなった。



人を信じることも出来なくなって、



正直、死にたいとさえ思っていた。




でも、俺がそうしなかったのは恭平がいてくれたからだった。それから、母親と一緒に育てていた、家で飼っていたうさぎのもち子がいたからという理由もあった。



もち子は家で1人だった俺と、ずっと一緒にいてくれて、時にベッドの枕元で寝てくれることさえあった。



動物は人を裏切らない。



それに、動物にこんなにも人の心を支えるパワーがあったんだということにも気付いた。



だから俺はもち子を始め、動物には心を開く事が出来た。



こんな人殺しの自分の事は大嫌いだが、動物の為になら生きれる気もしてきていた。




でも時々思い出すんだ。




“アイツが殺したんだ”って言葉を。




祖母の姉妹達でそう話していた所を、たまたま聞いてしまった俺。時々夢にまで出てくるようになって、何度も苦しい思いをしては泣いて、もち子に甘えた。


何度天国の母さんに謝った事だろう。



何度、“母さんじゃなくて俺が死ねば良かったんだ”と思った事だろう。



「今日、拓馬顔色悪いね」

「あぁ……また夢に出てきた……」


恭平にはそうやって本音を吐いたりしていた。
恭平はずっと、俺を元の状態に戻したいと願っていてくれて、その為いつも俺のそばにいて、俺を笑顔にさせようと遊びに誘ってくれたり、楽しい時間をたくさんくれた。


そんな俺の日常の中に、突然彼女が入ってきた。


大して絡んでもなかったのに、熱出した俺に飯を作ってくれた。
その後もいきなり動物園に誘ってきたり、体育祭の時にかっこよかったと言ってくれたり、文化祭も一緒に回りたいと誘ってくれたり、デートにまで誘われて、そこで手を繋いだりもした。

気付けば彼女がいるという事が、俺の日常の中で当たり前になっていた。


人間不信が故に無愛想で、冷たい態度しか取れないこんな俺の事を、彼女は怖がる事も嫌う事もなく、それどころか容赦なく俺にぶつかってきてくれた。


彼女のそんな行動が嬉しくて、いつの間にか彼女に心を開きつつあった。


そのデートの帰りに彼女は、道路の中央分離帯にいた猫を助けようとした。それが俺の中で母さんを亡くしたきっかけの事故と妙に重なり、彼女を全力で止めた。その後、彼女は全力で俺に寄り添おうとしてくれたのに、俺は彼女を他人呼ばわりして、他人が俺の過去に首を突っ込むなと怒鳴り散らしてしまった。


それでも彼女は諦めなかった。


どんなに俺が彼女を突き放しても、彼女はどんな時も俺の事を想って全力で追いかけてきてくれた。




俺にここまでしてくれる女の子は初めてだった。



だから俺は彼女を好きになった。




彼女が佐渡ヶ島まで一緒に来てくれたから、ばあちゃん姉妹との誤解も解けたし、事故の真相も知れた。


俺が小さい頃に家を出て行った父さんに会うことが出来たのも、彼女のおかげだ。


あともう少しの所まで来たのに、父に新しい家族がいたら俺の存在は邪魔になると億劫になってしまった、俺の背中を押してくれたのが彼女だった。



彼女は俺の恩人であり、



人生で1番好きになった女の子だった。



でも、俺は自分に自信を持てなかったが故に、後に両想いである事が分かっても尚、彼女を自分のものにする事はせず、結果的に別々の道を歩む形となった。


その後恭平から告白された彼女は、高3の夏からずっと恭平と付き合っていた。


それもあって、彼女とは友達としてこれからも付き合っていこうと決めた。


そんな中、卒業式を終えてから数日後、彼女が俺のバイト先まで会いに来た事があった。あの日の別れ際、俺は最後に彼女にハグをした。



ケジメを付けるためだった。



電車のドアが閉まって、彼女の姿が見えなくなった時、俺は窓の外から空を仰いで、
彼女に恋した自分と決別をしたのだ。




彼女への恋愛感情はもう忘れよう。


そう思っていたのに、彼女の事はなかなか忘れられなかった。


だからといって、恭平と彼女が別れた事を知っても、別に自分から彼女を追おうとする気は起きなかった。


この時の俺はまだ、ちゃんと自分に自信を持てていなかったからこそ、自分のものにしたいという欲よりも、彼女が俺じゃない他の誰かとこの先幸せになってくれればそれで良いという欲の方が強かった。だから俺は、彼女への気持ちに分厚くて重い蓋をしたのだ。


大学では俺の学びたい事を沢山学べて、充実した時間を送ることが出来た。

俺の進学した大学には教授として父親もいたし、心強かった。

動物に触れ、動物とたくさん向き合っていく中で、徐々に彼女への気持ちは薄れて行った。

そんな彼女とは時々LINEでは連絡を取っていた。


「良いなぁ!新潟のお米!私にも分けてよ!」

「じゃあ、今度送ってやるよ」


そんなやり取りをした事もあった。


「お米めっちゃ美味しい!うちの家族も喜んでるよ!送ってくれてありがとね!」


LINEでのやり取りはしていたけど、自分から会う勇気までは出てこなかった。

ある日恭平から、

「今度里奈ちゃんと石川ちゃんと篠山誘って飲むからおいでー!」

と誘われ、彼女に会える機会はあったのだが、当時専門大学を卒業して一足先に社会人になっていた彼女は、その日たまたま残業になってしまい、会えなくなってしまったのだ。

彼女に会って、普通に話せた時。


その時にやっと、本当の意味で彼女の事を吹っ切れたと言えるようになるはずだったのに、その機会を逃してしまった。


また今度会える機会があるだろう。


そんな風にずっと彼女の事を先送りにしていた結果、

インターンシップ期間も始まり、動物関連の施設での研修をたくさん重ねていき、動物だけでなく、多くの人とコミュニケーションを取る機会が増えていった。4年になり並行して論文も書き進め…

気付けば今度は俺自身が社会人になっていた。


高校卒業してからの4年間、結局彼女に会うことは1度も無いままここまで来てしまった。



だから驚いたんだ。



いとこの諒子に頼まれて、諒子とその子供と買い物の為にショッピングセンターを訪れていた時に、たまたま彼女に出くわしたのだから。




ダメだった。




4年ぶりに会ったその彼女は、




とても綺麗で可愛くて、




高校の時よりも素敵な女性になっていた。




再会した瞬間に思った。




あぁ。俺、やっぱり彼女の事が好きだと。




もう自分の気持ちに嘘を付けなかった。



1度会ってしまったら、リミッターが外れたかのように止まらなくなった。


会えなかった分を埋めるかのように、俺は彼女と2人で頻繁に会うようになった。


俺からだけじゃなくて、彼女からも誘ってくれる日もあったので、それが妙に嬉しくて、幸せだった。


高校生の時に、一時的に両想いになった俺たち。

またあの時のように気持ちが通じ合えたら良い。俺はそんな日が来る事を願って、積極的に彼女のそばに居続けた。

俺と一緒に居る時に、彼女はいつも言ってくれた。


「鈴木くんと一緒にいるの、本当に楽しい!!」

と。

そんな喜びに満ち溢れた彼女の笑顔が嬉しくてたまらなかった。



彼女が愛おしい。



彼女とずっと一緒にいたい。



だからこそ失敗はしたくない。


慎重になった俺は彼女に半年の時間をかけた。


そして、彼女の誕生日に俺から告白した。



これでもしダメだったら、本当にもう諦めよう。


その覚悟で伝えた「好きだ」という言葉だったけど、


驚いた事に、彼女も俺と同じ気持ちでいてくれていたのだ。


「私も……鈴木くんの事が好きです!!」


彼女と想いが通じ合えて、本気で嬉しかった。

だから俺はこの日、




もう里奈を離さないと心に決めた。






そんな里奈と俺は、早いもので付き合って3年が経っていた。

2年目には俺から改めて「結婚を前提に付き合ってください」と再度告白をし、新たなスタートを切った。そこから同棲も始めた。


同棲を始めて2年。俺達は共に26歳になった。

里奈と初めて出会った高校2年生。


あの時の俺らは16歳。


もう、里奈と出会って10年が経ったんだ。


そんな話をしながら今、俺達はとある場所に来ていた。


「うわー!!やっぱりここからの眺めは良いねー!!」

それは、佐渡ヶ島だ。

「ねぇ、夕日めっちゃ綺麗じゃない!?」

「だな」

2人で佐渡ヶ島のばあちゃんの家に遊びに来ていたのだ。ペットのうさぎのコロンは、恭平に預けてきた。
今は里奈との佐渡ヶ島でのデート帰り。


里奈にいつか見せた、日本海の絶景を見る事が出来る、海の岩場にやって来ていた。

「拓、覚えてる?」

「ん?」

「ここね、初めて拓が私に『ありがとう』って言ってくれた場所だよ!」

「そうだっけ?俺、覚えてないや」

「えー!!」

と言うのは嘘。高2の時に俺は確かに彼女とここに来て、ばあちゃんと和解する事が出来たことのお礼を伝えた。
里奈の記憶の良さには驚いた。


風が吹き、彼女の長い髪がなびく。


夕日の色に染まった彼女が、息を飲むほどとても綺麗で、景色よりもついそっちに目が行ってしまった。



10年経った今も、彼女は変わらず素直で真っ直ぐでド直球。



そして何より優しい。



俺はそんな彼女にこの先何年、何十年と一生恋をし続けるし、同時に彼女を一生愛していく。



里奈という、俺の人生を大きく変えてくれた大切な存在を、俺は一生かけて守り抜く。





そんな想いで俺は今、里奈に伝える。





「里奈……」








「ん?」









俺の方に振り返る、宝石のように輝く綺麗な目をした彼女を見つめ、俺は告った。













「俺と結婚してください」











俺が今手に持つ“本物の宝石”も、彼女の瞳のようにオレンジ色に輝き、存在感を出していた。


彼女は俺の言葉と目の前の“オレンジの宝石”に驚きを隠せず、手で口を押さえていた。



「た……た……拓………そ、それ…本物!?」


と戸惑う里奈。そんな彼女らしい反応に俺はついフッと笑みを零す。

「そうだよ。ドッキリな訳ないだろ。正真正銘、本物の指輪です」

「そ……そっか……!」

彼女は涙脆い。気付けば目から涙を零していた。


「あぁ……どうしよう……どうしよう……!!あぁもう……嬉し過ぎて……ごめんーー!動揺しちゃって」

と言って彼女は涙を流しつつも笑顔を向けていた。そんな里奈が可愛くて、俺は彼女の頭を優しく撫でた。

彼女は一生懸命に涙を拭い俺の目を真っ直ぐ見て、

「拓……!あぁ……嬉しい……!!もう、夢みたいだよ。拓、私なんかで良ければ、……これからもよろしくお願いします!!」

と言ってくれた。

彼女からのその言葉に、俺は尋常じゃない程の安堵感を得た。

「うん。必ず幸せにします」

「はい!てか、私も拓の事幸せにする!」

「それは頼もしいな」

2人で笑い合った後、俺は箱からそれを取り出し、箱をポケットにしまってから里奈の左手の薬指にはめた。

「綺麗……!拓、ありがとう。私、拓のお嫁さんになるんだね」

「あぁ」

俺は彼女の事をギュッと抱きしめて、

「この先もそうやって、俺にその笑顔をたくさん見せてくれ」

と伝えた。

「うん!」

俺と里奈はそのまま見つめ合い、潮風を感じながらそっと唇を重ねた。




今日この日は、高校卒業して以来会えていなかった俺達2人が4年振りに再会した日。




俺にとっての再出発の日だ。



だから俺はこの日に里奈に伝えると決めていたのだ。



「ねぇ里奈、めちゃくちゃベタな事言うけど聞いてくれる?」

「うん。なぁに?」


俺は最愛の彼女を笑顔で見つめ、こう伝えた。









「俺と出会ってくれて、本当にありがとう」











里奈、俺はもう絶対にお前を離さないからな。




どうかこれからも、




ずっと俺のそばにいてください。





この命が尽きて、生まれ変わったとしても、また里奈に出会って里奈に恋をしたい。





そう思えるくらい俺は、







里奈を愛してるよ。



ーーーーーーーーーーーーーー

コンコンコンと、ドアをノックする音が聞こえた。


部屋に入ってきたのは、白いタキシードを身にまとった拓だった。



想像以上にカッコイイ。前撮りで既に見ているというのに、結婚式当日見るのとではまた違う。

私は座っていた椅子から立ち上がり、ゆっくり拓に近付いた。

「たーくん、カッコイイよ」

「この前も見ただろ」

「それでもカッコイイの!ねぇ、私は?」

と言って、私はウェディングドレスの裾を少し持ち上げる。

「はいはい。綺麗だよ」

「何その言い方!超やる気ないじゃん!」

私のことを足らってくる拓だけど、次にはにかみながら私の事を優しく抱きしめてくれて、

「ごめんって。本当に綺麗だよ」

と、改めて伝え直してくれた。

「ありがとう。前撮りの時の方が綺麗だった!とか言われたらどうしようかと思ったよ」

「そう思ってるのはお前の方だったりして?」

「もう、バカ!!」





その後、式場のチャペルに移動し、牧師さんの元、私達は誓いのキスを交わした。





家族以外に今日は和彩、希美、亜由、琴葉も来てくれている。
男性陣は恭平くんに篠山くん、安達くんも来てくれた。

披露宴ではみんなからのサプライズムービーもあったりと、私は大泣き。拓も嬉しそうにしていた。

でも、もっと想像していなかったサプライズがあった。




それは、拓からの手紙だ。




「それでは新郎 鈴木拓馬さん、宜しくお願い致します」



司会者の声掛けがあり、マイクの前に立つ拓。拓は手紙を広げ、私に向けて読み始めた。
拓の愛の溢れる手紙に、私は大号泣。

人にこうして心からの想いを伝える事が出来るようになった目の前の拓はとても輝いていて、何よりかっこよかった。


拓は、私の自慢の旦那さんだよ。


拓のお嫁さんになれたこと、私は心底誇りに思うよ。


2人で、笑顔の絶えない温かい家庭を築いて、幸せな未来を作っていこうね。




その後、私達は外に出た。みんなが楽しみにしていたブーケトスの時間だ。

その時、私達2人を取り巻くように心地好くて温かい風が吹いた。

「温かい……」

と拓が呟く。そんな拓に私はこう言った。

「もしかしたら、拓のお母さんともち子ちゃんが祝福してくれてるのかもよ!」

その言葉に拓は、

「あぁ、そうかもしれないな」

と言って微笑み、青空を仰いだ。




拓のお母さん、もち子ちゃん、




私達、幸せになります!









fin.

最後までご覧頂きありがとうございました‼️
ジューンブライドということもあり、
このタイミングで描かせて頂きました❣️

この先何十年、2人は本当に幸せな毎日を過ごし、温かい家庭を築いていくと思います✨

鈴木の事を、深い悲しみの過去から救ってくれた里奈。

そんな里奈を不器用ながら愛し、頼もしくて大人な男性に成長した鈴木。

2人の相性は最強だと思います😍✨

今回でリクエスト頂いた中での
2人メインでの登場回は最後になりますが、どうか2人の幸せを願っていてくれたら嬉しいです+。:.゚(✿˘艸˘✿):.。+゚

最後のリクエストは、鈴木と里奈の子供が見たい!という事だったので、そんなお話を書きたいと思いますが……

子供がそこまで得意で無いだけに、
子供を描ける自信が……←
いつになるかは分からないですが、
リクエストにお応えすべく頑張ります✨✨


※あぁ、最後のリクエストと言いましたが、こんな話書いて欲しい!っていうリクエストはまだまだ受け付けますので、何かあれば教えてください❗️❕

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