何をするかと思えば…
「ひぃ!!!」
私のワイシャツの後ろ襟をガシッと掴み、
「来い」
と言って私の事を廊下に引き摺り出した。
〈里奈、頑張れ……〉
という視線を3人は送っていた。
和彩、希美、亜由!私は必ず生きて帰って来るぜ!
それから、鈴木くんには近くの階段の踊り場まで連れてこられ、シーンとした静かなその場所で2人でこんな会話をした。
「お前か」
「え?」
「俺の彼女がどうとか、そんな事言って騒いでたのは」
鈴木くんの表情めちゃくちゃ怖い!ホントに般若じゃん!!もう、角が見えるようだよ。
「いや……なんで私だと……?」
「篠山がお前らを指さしてた。だから消去法でお前かと」
「いやいや!最後だけ根拠適当じゃね?」
と話すと、鈴木くんは私を追い込むように“壁ドン”をした。
こんなの、私が思い描いてた理想の壁ドンじゃない!!!!私の理想の壁ドンは…………
「里奈、好きだよ。こっち見て」
って甘い言葉をかけられての……壁ドン!!
「俺だけを見てよ」
と甘い言葉を言ってくれて…からの…顔がどんどん近づいて……チューーーー!!
ですよ!!!!
なのに現実はこれかー!!!!!!!!
「俺に彼女なんていない。どういう事か説明しろ」
と、ひっっくい声で私を追い詰める鈴木くん。低すぎて地響きすら起きそうだ。あんた、将来警察官にでもなって取り調べでもしたら?こんな奴に詰められたら、誰だって白状するよ。
なので私は、昨日校門で見た女の人の事を彼に伝えた。すると彼はこう言った。
「くだらん。そいつは俺のいとこだ。大学生の」
え……いとこですか?
「だから、彼女でもなんでもない」
鈴木くんはそう言って、腕を組んでため息をついた。
「ほ、ホント?」
「嘘言ってどうする」
「で、ですよね」
鈴木くんは豪快に自分の髪をくしゃくしゃとしながら、
「アイツらにはお前から撤回しろ」
と言う。
「お前のせいでアイツらが勘違いして騒ぎ出したんだ。自分のケツは自分で拭け」
この冷酷強面クソ野郎め!お前は人をムカつかせる天才か!?あ゛ぁ!?私は頭に来て“般若”の事を眉間に皺を寄せてめちゃくちゃ睨み付けた。
「なんだその目は」
「なんでしょうねー!!」
「貴様。目、潰すぞ」
「潰せるもんなら潰してみろこの冷酷クソ野郎め!」
待て私。反発すればする程彼への私の印象は下がるばかりだぞ!?なんて思っていたら、彼は指をチョキにして、私の眼球をホントに……
「きゃあ!!!!!!」
私は目をつぶった。
でも……あれ?目が開くぞ?
鈴木くんのチョキの手は、私の眉毛に当たっていて、なんともソフトタッチだったのだ。
顔を上げると、鈴木くんと目が合い、悔しい事に私はドキドキしてしまった。このまま、鈴木くんに抱きしめられたい。
「からかってごめんな」
なんて言ってもらいながら……優しく……優しく……ギューってね。
まぁ、そんな事が起きる訳もなく、鈴木くんは私の眉毛から指を離し、
「帰る」
とだけ言って、私を置いてさっさと歩いて教室へと帰って行ってしまった。
「きぃぃぃぃ!!!!」
私は履いていた上履きを片方脱ぎ、床に叩き付けた。
そんな一連の話を次の日に窪塚くんに話すと、大笑いされた。
「ホント仲良いね2人とも!」
「どこが!!!」
「え?そう見られて嬉しくないの?」
「あ……いや……」
窪塚くんの前で照れると、窪塚くんは私の鼻を人差し指でツンと触って、
「可愛いね里奈ちゃん」
と言った。これ!!これよ!!こういう事を彼はすべきだ!!幼なじみのことをどうして真似ようとしないかね鈴木くんは!!
窪塚くんは机に頬杖をつきながらこう言った。
「彼女はいとこの関 諒子さん。大学3年生。拓馬のお姉ちゃん的存在の人でさ、今でも時々拓馬と遊び行ったりするんだよね。どうも拓馬の事が心配みたいよ」
「へぇ……そうなんだ」
どうやら、一昨日見たあの人は本当にいとこの方らしい。するとその時こんな言葉を思い出した。
ーーだ…第一、こんなの好きになる奴なんていねぇだろ
この間の大型スーパーで会った日に、彼はそんな事を零していた。確かにこの言葉を言うくらいだから、本当に誰とも付き合ってないんだろうなと汲むことが出来た。そこに今気付くなんて遅過ぎたな。勝手に彼女がいるかも!って騒ぎ立てて、結局鈴木くんを困らせる羽目になって、私ったら最悪な奴じゃん。
完全に鈴木くんに嫌われちゃったかな。
てか、元々嫌われてたのかもしれないけど。
そんな事があってから数日後、私は美化委員のポスターを各階の掲示板に貼る為に、校内を歩いていた。最後の1枚……。畜生。空いてる所が上すぎて届かん。幸いここはうちの学年の階だし、自分の教室から椅子でも持ってこようかな?なんて考えていたら、
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!