「拓馬さぁ。誰か部屋に人呼んだ?」
「あ?」
「いや、なんかめっちゃクリーム系の料理の良い匂いするんだけど」
俺の名前は窪塚恭平。今、そこのベッドで寝込んでいる鈴木拓馬の幼なじみ。部活終わりにこいつの家に寄ってみたのだが、部屋中物凄く良い匂いがした。
「誰かに手料理でも振舞ってもらったのか?」
「……なんか、クラスの変な女が来て…」
「変な女!?」
「あぁ。勝手に雑炊作って帰りやがった」
ふと視線を下に落とすと、確かに部屋のローテーブルの上に乗っているお盆には、“雑炊の米が1粒たりとも残っていない綺麗なお皿”とスプーンが。
拓馬は普段から口数も少なく無愛想。そんな拓馬が女子を部屋に上げるなんて珍しい。拓馬は強面で近寄り難いから、とある女子達の間じゃ“般若”と呼ばれている程だ。でも何?そんな般若に手料理を振る舞える女子がクラスにいただと!?
だから俺は、拓馬の看病に来たその女子に会ってみたくなった。
そしたら次の日、廊下で拓馬がとある女子とこんな会話をしているところを見かけた。
「昨日あの後……雑炊食べてくれた?」
「あぁ」
「そっか…。味、大丈夫だった?」
「うん……」
ほぉ、どうやらあの子がそうらしい。もしかしてあの子、拓馬に惚れてんの?だとしたらあの子は一体、どんな子なんだろうか。
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鈴木くんの熱の件があってから数日後。帰り際、下駄箱で私はとある男子に話しかけられた。
「君、ちょっと良い?」
「え!?」
誰?この茶髪男子。ちょっと見た目もカッコイイかも。上履きの色も私と同じ赤だから、学年は同じなんだろうな。
「吉田里奈ちゃんだね?」
「え?なんで私の名前を?」
「ごめん。里奈ちゃんと同じクラスの友達に名前聞いちゃった。ねぇ、今から時間あったりしない?」
何何!?ナンパですか!?私は顔を強ばらせ、彼の前で不思議な身構えをしてしまった。
「いや、あのー、なんかごめん。誤解させたね。ナンパとかそういうんじゃないから大丈夫だよ。あの、案外そのリアクション傷付く…」
「わ!!ごめんなさい!!」
なんだかよく分からないけど、悪い人では無いのかな?すると彼は、とある人物の名前を出した。
「この間、鈴木拓馬の看病しに家に行ったでしょ」
「え!?なんでそれを!?」
「幼なじみなんだ。彼とは」
うっそ!!ここに来て幼なじみ登場!?これはなんだ?彼には近付かないで的なヤツですか!?……って、こんな考えになる私は、何かのドラマの見すぎなんだろうか?
「え!!噂とか流れてる感じ!?」
と反応すると、彼は笑いだした。
「ううん。そんな事ないよ!ただ、ちょっと拓馬の事で里奈ちゃんと話したい事があってさ!あぁ、俺は2組の窪塚ね!窪塚恭平!」
という事で私は窪塚くんと一緒に、高校の最寄り駅周辺のカフェに入った。そこでこんな話を振られた。
「単刀直入に聞くけど、里奈ちゃんって拓馬の事好きだったりしない!?」
「ひぇ!!」
私はその拍子に飛び上がってしまい、膝をテーブルの裏にぶつけてしまった。
「いっって!いったいよコノヤロ!」
「里奈ちゃんさっきから面白いね!見た目こんなに可愛いのに、ギャップ萌えだね!」
私は見た目には気を使っている。毎朝早起きしてメイクはバッチリするし、髪だって巻く。これは鈴木くんの事を好きになる前からの日課だ。ただ、友達からはよく「喋ると台無し」と言われる。窪塚くん、笑い過ぎだよ…
「あぁ、で?その反応するってことは図星だね?」
窪塚くんにはどうやら隠し事は無理っぽい。今の私のコミュニケーションスキルでは太刀打ち出来なそうだ。諦めた私は、
「はい……そうです」
と答えた。そのついでに
「でも、お願いだから誰にも言わないで!!広まって本人にバレたりでもしたら、一生口聞いてもらえなくなるー!」
窪塚くんにはちゃんと頭を下げてお願いもした。
「里奈ちゃん落ち着いてよ!俺は脅したくて今日呼んだ訳じゃないから!」
「え?」
窪塚くんは続けた。
「拓馬さぁ、知っての通りめっちゃ無愛想でしょう?全然人に興味無いというか…。幼なじみとして、アイツのああいう性格をなんとかしたい所だったんだよね。あんなんじゃいずれ社会に出る時に絶対不利になるからさ」
「ほぉ」
「でも、そんな時に里奈ちゃんが現れた。里奈ちゃんに、拓馬の性格を変える手伝いをしてほしいんだ」
と言って窪塚くんは私の手を両手で握ってきた。
「え!?私に!?」
「うん。」
「でも、そんなの窪塚くんの方が容易く出来るんじゃないの!?付き合いだって長いわけじゃん?」
と言い返したが、窪塚くんの狙いは、
「俺じゃ無理なんだ。拓馬には恋をしてもらいたいんだよ」
どうやら、鈴木くんが私に恋をしてくれれば、あの性格も丸くなっていくんじゃないかと睨んでいるんだそうだ。これまで鈴木くんの事を好きだという女子が現れなかった事から、こんなお願いをするのは今日が初めてのことらしい。
「俺が里奈ちゃんの恋のキューピットをして、2人がくっ付く。それによって里奈ちゃんは好きな人と両想いになれるし、恋をした拓馬は人を愛することを知り、性格が丸くなる……かもしれない!ね?そうなったら一石二鳥だし、俺らとしてもウィンウィンじゃね?」
そう話す窪塚くんの目はキラキラと眩しい程に輝きを放っていた。余程鈴木くんの性格をなんとかしたいんだろうな。でもまぁ、話を聞く感じ、私の恋を応援してもらえるって事みたいだから、別に悪い話ではない。
「うん、悪くないだろう……」
「ん?ぺこぱ!?」
それから暫くこのカフェに入り浸って、窪塚くんに向かって鈴木くんのどこを好きになったのかや、好きになったきっかけも含め全部話した。要するに惚気けまくったのだ。
「可愛い!里奈ちゃん可愛い!クソ!拓馬。鈍感かよ!早くくっ付いてしまえ!」
と、窪塚くんもなんだか楽しそうにしていた。
「ホントだよね!全然女子の気持ち分かってないよね!あの強面般若野郎!ホント最低男だよ」
「でも……?」
「好きなんだよなぁ……」
なんて話していると、
「あ!里奈ちゃん!まだ時間平気?」
「はい?」
私は窪塚くんに次なる場所へ連れて行かれた。そこは大型スーパー。1階に食料品や日用品売り場が広がり、2階にはお花屋さんや100円ショップが入っている。
「ここは?」
「ん?まぁ着いてきてよ」
言われるがまま窪塚くんに着いていくと、1階のフロアの奥の方にペットショップのコーナーが。
「広い!へぇ!ペットショップまであるんだ!」
「うん!なんでもあるっしょ!」
このペットショップでは犬や猫はもちろん、うさぎやハムスター、お魚やインコの販売もしていた。結構いろんな生き物達が揃ってるのね。
「でも、なんでここに?」
「んー?ほら、あれ」
窪塚くんの視線の先を見てみると……
「えぇ、可愛いですよね」
すすすすす、鈴木くん!?
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。