ある日、鈴木くんが学校をお休みした。どうやら熱らしい。
残念。鈴木くんの事をこっそり自分の席から拝むのが私の日課だったのに。その日の帰りのHRの時に先生がクラスのみんなに、
「誰か鈴木くんの家に近い人!このプリント達を持って行って欲しいんだけど……誰か居ないかな?」
と呼び掛けた。すると鈴木くんの数少ない友達の1人、篠山くんが
「それなら隣のクラスの窪塚が1番近いと思いますよ?」
と返した。
「あぁ、窪塚くんか。そっか、頼んでこようかな?」
なんて話している所に、私の友達の和彩が手を挙げてこんな事を言った。
「はい!先生!里奈が激近ですよー!」
ちょ!!!!なんて事を!!
「はぁ!?」
「そうか、じゃあ吉田さん、よろしく頼むよ!」
なんて事があり、結局私は先生からプリントを預かる羽目になった。
「先生!里奈、最寄駅から方面違くて分からないらしいから、住所念の為教えてあげてね!」
「あぁ、じゃあメモを渡すよ。このメモ落とさないようにね」
まるでこの2人がグルなんじゃないかと疑ってしまうくらいにトントン拍子に事が進み、私は今、本当に鈴木くんの住むマンションまで来てしまった。もう。方面なんて逆だし、なんでわざわざ乗り換えしなきゃいけないの。
それにしても、築年数が長そうなマンションだな。ひとまず鈴木くんの住む4階に行こう。
「えーっと…407号室……ここか」
なんか、緊張するな。とはいえあれか。お母さんとかいるよね?鈴木くんが出て来るとは限らないじゃん!お母さんにとっとと渡して帰ろう。恐る恐るインターホンを押した。
ピンポーン………
あれ?出ない。
もう一度押すべきよね?うん、もう一回だけ押してみて、出なかったらポストに入れて帰ろう。まぁ、ポストの中の存在に気付かなかったら、それはそれで先生の本望では無いのか。
頼むよ、誰か出てくれよ…
ピンポーン………
もう一度押したが、誰も出る気配が無い。部屋の番号間違えた?私は先生から貰ったメモを見返した。407。だよね。407だよねここ。見間違えてない。隣のマンションだった!?いや、マンション名も、下でちゃんと確認した。
その時だった。
「はい」
低い声がインターホンから聞こえてきた。
いきなりのことでビクッとしてしまったじゃないか。
「よ、吉田です!同じクラスの」
「……なんだ」
「プ、プリントを届けに来たの!あと、……今日返却されたノート」
と言うと、
「帰れ」
なんとも冷たい返しが来た。
「いや……プリント…」
「良いから帰れ…ポストに入れて帰れ!」
と、凄い勢いで言われて怯んでしまった。せっかくここまで来てあげた私に対してそれは無くない!?あぁ、鈴木くんの事が好きだなんてやっぱり有り得ない!そうよ、忘れたの?コイツは無愛想で冷酷、強面で無口な般若なのよ!?私ってばいつまで林間学校の事を引きずってるのよ。
「あぁそうですか!!分かりましたよ!!帰ります!!ちゃんと後で見といてね!!」
と言い返し、イライラしていると……
ガシャン!!!!
……え!?
中で凄い物音がした。
鈴木くん!?
私は心配になって、鈴木くんの家のドアをノックした。
「鈴木くん!?鈴木くん!!」
もしこれがドラマなら、だいたい家のドアの鍵が開いてたりする展開なんだけどなぁ、なんて思いながらもドアノブをひねると……
開いたー!!!!
「お邪魔します!」
慌てて靴を脱ぎ、中に進むと……
「ぎゃああああ!!!!!」
「ぬおおおおお!!!!!」
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!