第22話

第7話 その3
51
2021/05/09 08:28





今、何が起こってるの?私……


鈴木くんに手首を掴まれてるじゃん。



「え?鈴木くん!?」

鈴木くんもお会計を終えた後のようで、いつもの地響きが起きそうな低い声で、私にこんな事を言ってきた。

「少し話せるか?聞きたいことがある」


私に聞きたいことって……なんだろうか。


鈴木くんと私はスーパーを出た所にあるベンチに座って、2人で話す事になった。鈴木くんはソワソワしている様子。なので私から優しく、

「どうしたの?」

と、まずは振ってみた。

「いや…えっと……んー……」

私の方をチラチラと見ながらも、鈴木くんはため息をついたりして、なかなか話を切り出そうとしない。それでも私は鈴木くんのタイミングを待った。

「えっと……あのさ」

「ん?」

鈴木くんは横目で私の事を見ながらこう尋ねてきた。

「お前は…どう思う?」

「え?」

「今日の文化祭の話し合いの時に出た案だ。俺がその…お化けをやるとかやらないとかの話だ」

鈴木くんの切り出した話題はまさかの今日のHRでの話し合いの内容のことだった。

「どう思うって?」

と問いかけた私。でも、次の言葉を聞いて鈴木くんが何を言いたかったのかが分かった。

「もう…だからその……やった方が良いと思うかどうかって事だ」

まさかあの冷酷で無愛想な鈴木くんから、こんな発言が飛び出してくるとは思ってもいなかったので、内心かなり驚いていた。

「もしかして、ずっとその事を悩んでたの?」

と問い掛けると、鈴木くんは首を縦に振った。

そう、鈴木くんは密かに1人でその事をずっと考えていたみたいだ。それも、どうしたらいいと思う?って私に聞いてきた訳だ。こんな事は初めてだった。

私が知ってるこれまで見てきた鈴木くんだったら多分、却下!の一点張りで終わっていたはずだ。その鈴木くんがどうして突然そんな事を考えるようになったのか、とても不思議でならなかった。

でも、鈴木くんはこう言った。



「お前ならどうするか、聞いてみたくなった」



…もしかして……


ほんの少しだけど、

鈴木くんの価値観を変えられたってこと……?


「お前が俺ならどうする?」


これ、鈴木くんが今、私を頼ってくれてるって事で良いんだよね?そういう風に解釈して良いんだよね!?そう思ったらつい嬉しくて、1粒涙が零れた。

「え?おい!何故だ!?なぜ泣いてる!?」

鈴木くんは後退りするようにして、私のこの反応に驚いた。

「ごめん。違うの。鈴木くんが私を頼ってきてくれた事が嬉しくて」

「バカ!頼るとかそんな……ただ聞いてるだけじゃないか。浮かれるなバカ」

「それでも嬉しいの!」

私の涙は、1粒所では止まらなくなり、ポロポロとたくさん零れた。こんなんじゃ私、情緒不安定の子に思われちゃうじゃん。

早く泣き止まないとと思ったが、

実の所窪塚くんから鈴木くんは人間不信だと聞いてから、ずっと悔しくて、辛くてならなかったんだと思う。


この4ヶ月の間、鈴木くんは1度も私の事を信用してくれてなかったって事なのかな?って、不安だったんだ。


「こ、こんな所で泣かれたら困る!俺が泣かせたみたいな絵面にしか見えないじゃないか」

「そうだよね…ごめんんん……」

鈴木くんは涙を流す私の対処の仕方が分からないようで、なんだかてんやわんやしていた。感極まった私は、そのまま鈴木くんにしがみついて涙を流した。

ずっと、こうして彼に触れたかった。

安心したかった。

すると鈴木くんはぎこちなくではあったけど、私の事を優しく抱きしめてくれた。

「ったく。お前ってホント変な奴だよな」

「鈴木くんよりは変じゃないもん」

「…バーーカ」

鈴木くんの腕の中は凄く温かかった。
あの時のナイトウォークの事を思い出すなぁ。
こうして人を優しく抱きしめる事の出来る鈴木くんはきっと、完全なる人間不信な訳じゃないはずだ。

本当はきっと、動物だけじゃなくて、人間にも優しく出来る人に違いない。


「鈴木くんにこうしてもらうの、凄く落ち着く。ありがとう。もう少しだけこうしててもいい?」

「好きにしろ」


鈴木くんは私を抱く力を強め、優しく髪を撫でてくれた。


今の鈴木くんがもし、ほんの少しでも私の事を信用してくれているというのなら、それだけで私は嬉しいよ。



その後、鈴木くんには駅まで送って貰うことになり、その道中でさっきの話の続きをした。

「鈴木くん、文化祭のお化けの件、私が鈴木くんなら引き受けるかな!」

「え?」

「だって、自分がそれに挑戦する事で、良い結果を残せるかもしれないんだよ?それに、自分の活躍でクラスの友達が喜んでくれたらなんか嬉しいし、達成感あるじゃん」

「……そういうもんなのか?」

「うん!私はそう思うよ」

鈴木くんは夕焼け空を仰ぎながら、

「…そうか」

と呟いた。

「うん」





それから後日の文化祭のHRの時に、多数決で出し物がお化け屋敷に決まり、鈴木くんは私の助言通りに、メインのお化け役を引き受けることに決めたのだった。

「いやぁ、あの般若が本当にフランケンシュタインを引き受けるだなんて、驚いたなぁ」

と和彩。

「ね!びっくりしたよね!てか、なんかちょっとだけ前よりも話しやすくなったような気がしない?」

と亜由が言った。

「それ、私も思った!」

と、今度は希美がそう言った。

「ちょっと里奈、何にやけてんの!?」

「ん!?え!?」

「まさか!般若と何か良い事でもあった!?」

まさかあの般若の鈴木くんが今回の話を引き受ける事に決めた理由に、実は私が関わっているだなんて、この3人は思ってもいないだろうな。


文化祭を機に、彼が私にもっと新たな一面を見せてくれたら良いな。




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ご覧頂きありがとうございます🌟

いかがでしたでしょうか??(♡´▽`♡)

今回はちょっと切ない系のほろ苦いお話?になりました!ちょっとずつですけど、里奈と鈴木の距離が近付いてきたんじゃないかな?って思います(*´˘`*)♡
次回もお楽しみに!(*˙˘˙*)❥❥

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