今は生物の授業。私、哺乳類とかは好きだけど、昆虫とか爬虫類とかそういうのには全然興味が無いので、いつも聞く気が起こらない。別に、生物担当の西富先生が悪い訳では無い。それに、虫なんて見るのでさて気持ち悪いもん。
でも、私の視線の先にいる鈴木くんは、いつも真剣に聞いていた。鈴木くんのお家で飼っているもち子ちゃんにしろ、この間見たペットショップで働いている姿にしろ、本当に生き物全般が大好きなんだろうなって思う。
将来鈴木くんは、そういう何か生き物に関するような仕事に就くのかな?
鈴木くんのことをボーッと眺めていると、私はまた、この間鈴木くんから言われた言葉が蘇った。
ーー俺は……人殺しだ
あの言葉の意味を聞きたくとも、なんだか怖くて聞けずにいた。
この話に深く足を踏み入れてしまったら、鈴木くんがどこかに行ってしまいそうな気もしたからだ。
鈴木くんが遠いよ。どうしたらもっと近付けるのかな。
そう思っていたら放課後、まさかの出来事が起きた。
校門で、見てしまったのだ。
鈴木くんが綺麗な女の人と一緒にいる所を!!
校門で待ち合わせって事は他校!?でも、制服じゃなくて私服だし…もしかして大学生!?いや、社会人!?身長は170cm近くありそうなスラッとしたモデル体型で、髪もキューティクルな感じだし顔も可愛い!
あぁ、終わった。
吉田 里奈。告白する前に早くも失恋しました。
鈴木くんには、年上の彼女がいました。
なので次の日、この話を友達にして、自分の机に突っ伏してめちゃくちゃ嘆いた。
「クソ野郎めー!!高2で年上女子なんて生意気なんだよ!!」
「里奈落ち着いてよー!」
と希美。
「落ち着けないよ!般若のくせに彼女だよ!?しかも年上で美人だよ!?なんなの!?超ムカつくんですけど!!」
私は机の上を握りこぶしでバンバン殴った。
「やめなって!机割れちゃう!」
と亜由が言った。今は亜由、希美、和彩の3人に囲まれ、私の慰め会が行われているのだ。その時、和彩がこんな事を言った。
「なんだっけ、隣のクラスの般若の幼なじみの子。この間里奈を拉致ったって子」
「あぁ、窪塚くんの事?」
「そうそう!そいつに聞いてみたら?幼なじみで般若と付き合い長いならさ、何か知ってるはずじゃん?」
と言う。でも鋭い希美はこう続けた。
「え?待って?だってこの間聞いた里奈の話曰く、あの般若の性格をどうにか丸くしたいから、般若と里奈が付き合えるように協力するよ!って窪塚が言ってきたって事だったよね?てことは、考えられるのは2つしかないよ!」
「え?」
「1つは、般若に彼女がいることを単純に窪塚が知らなかっただけって説。もう1つは、その相手は彼女じゃない説!」
希美はそう言うけど、今の私は何を言われても聞く耳を持てなくて、
「どーせ彼女だよ!彼女なんだよ!」
と言って再び机をバンバン殴り続けた。
「希美、こりゃダメだわ。里奈、こうなったら暫く何も聞いてくんないよ」
「あちゃー……」
なんて話を私達が教室内で話していたもんだから、その話を聞いていた鈴木くんの友達数名が、その日の昼休みに鈴木くんに向かって、
「鈴木!お前彼女いたの!?」
「水くせぇなぁ!教えろし!」
と話しかけて大騒ぎしてしまった。やばい、教室で話す事じゃなかったなぁ。
「は?」
「え?だってさっきの休み時間にお前の彼女がどーのって女子達が話してたぜ?」
「は?」
「え?」
「誰」
「え?」
「話してたのは誰だ」
「いや、あの辺の女子…」
視線を感じた私達4人は、その先を一斉に見た。鈴木くんと仲の良い篠山くんが、私達の事を指で指していたのだ。
すると鈴木くんは、私達がお弁当を食べてる席をガン見し、鬼の形相で睨んできた。
「やば!ねぇ、般若こっち見てない!?」
と亜由が小さい声で囁く。
「だよね!え、何?殺られるの!?」
と和彩。
なんて話していると、鈴木くんがこっちに来ては何をするかと思えば…
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。