第3話

第1話 その2
74
2021/05/05 01:32
中に進むと……









「ぎゃああああ!!!!!」

「ぬおおおおお!!!!!」






そこには、上半身裸の鈴木くんがいた。

「なんで勝手に上がり込んでんだ!!」

「だって凄い物音がしたから!」

「見て分かるだろ!?壁掛けの時計がたまたま落ちただけだ!!大袈裟な奴め。帰れ」

この般若!!私はカバンを床に投げ付けてこう怒鳴り散らした。

「ひ…酷くない!?その言い方!!私、家が近い訳でも無いのに届けるように頼まれてさ?わざわざ電車に20分揺られてここまで来たんだよ!?」

「そんな事情知らん」

と言うと、鈴木くんは咳き込み始めた。あぁ、忘れてた。この人一応病人だったのか。

「てか、なんで裸!?」

「うるさい。汗かいたから取り替えようと思って着替えてる途中だったんだよ」

と言って鈴木くんは私を置いて廊下を進み、とある部屋のドアを開けて入って行った。恐らくあの部屋が鈴木くんの部屋なんだろう。



そういえば、家の人は?鈴木くん1人みたいだけど、仕事か何かで不在なのかな?




私はカバンを拾い、鈴木くんに着いて行きその事を尋ねると、

「どこにいようがお前には関係ないだろ」

新しいスウェットを着ながら私にそう言い放つと、何か手を差し出した。

「え?」

「早く。くれよプリントとノート」

そうでした。これを渡してとっとと帰ろう。

「あ、はい。これ」

「おう」

おう、じゃねーよ。お礼とかねぇのかお前には!!と思っていたら、

「なんだ」

と声をかけられた。嘘!この感情、顔に出てたのかな??

「いや、なんでもありません」

すると鈴木くんはまた咳き込んでしまい、苦しそうにしていた。

前髪の隙間から、冷えピタをおでこに貼っているのが見えた。それなりに熱も高いんだろうな。心配になって、

「大丈夫?」

そう声をかけてあげたのに、

「もう用は済んだだろ?帰れ」

と言う。

この般若!!なんで優しく「大丈夫だよ」とか言えないわけ!?こうなったら看病でもして、意地でもコイツに「ありがとう」と言わせてやる!!

「熱があるんでしょう?早く布団に入って!」

私は鈴木くんの大きな巨体をドン!とベッドの方に押しやって、ベッドに尻もちを付かせた。

「ななな…なんだ急に」

「暖かくしないと!寒いんじゃない?」

私は近くにあったエアコンのリモコンを手に取り、ピッピと何度か連打して設定温度を上げた。すると鈴木くんは鬼の形相でそのリモコンを私から乱暴に取り上げ、

「余計な事をすんな!!もち子の体に障る!!」

と言った。


……え、もち子?誰?


「もち子……?」

鈴木くんは、ムスッとした顔をしながら、顎でクイッととある所を指した。その視線の先に、低いテーブルの上にゲージが乗っている所があった。見に行くと、


「か、可愛い!!!」


ゲージの中に、真っ白なたれ耳うさちゃんがいたのだ。


意外!!まさかこの強面クソ般若野郎が、こんなに可愛いうさぎを飼っているだなんて。しかも名前がもち子とか、地味に可愛い。鈴木くんはエアコンのリモコンで設定温度を再調整して、

「うさぎの飼育適温は18℃~24℃。お前がリモコンを触って25℃。飼育適温圏外だ。頼むからもう何もするな」

と言ってから布団の中に潜った。なんだコイツ。ペットにはそうやって愛情注げるくせに、クラスメイトには無理ってか!?でもこの子には罪は無いので、

「ごめんねもち子ちゃん」

もち子ちゃんを眺めながらそう言い、その場から立ち上がった。するとその時、鈴木くんのお腹の音が鳴った。それを聞いて私はフッと笑ってしまい、

「あ、お腹空いてるんだ」

と言った。

「生理現象だ。何がおかしい」

「いや?別に?何か作ろうか?」

「だから、何もすんな。お湯沸かして後でカップ麺でも食う」

と言うから、

「そんなんじゃ栄養取れないよ!?家の人も今いないみたいだし、なんか作ってあげるよ」

と返した。

「俺の為を思うならさっさと帰れ」

「私帰ったらどうせカップ麺食べるでしょ!?ダメですー!ちゃんと栄養取らないと熱引かないよー?」

「放っておけばこんなもん下がる」

「良いから寝て待ってなさい!!」

私は鈴木くんのお腹を布団の上から足で押し潰した。

「うぐっ!てめー、これが病人に向かってやることか!!」

「そっちこそ!!看病してあげるって言ってる人に向かってその態度はなんですかー!?」

私は部屋のドアを閉めて、キッチンへと向かった。お米もある。卵もある。野菜もあるし、牛乳もある。よし。私はこれらの材料を使って、鈴木くんに雑炊を作ってあげることにした。料理をするのは好きだし、得意な方だと思う。これを鈴木くんに食べてもらって、「美味しい」って言って貰えたら良いな。




あーんってスプーンで口まで運んであげて、食べさせてあげるの。

「里奈。美味しいよ」

って言って、鈴木くんは私の頭をヨシヨシするの。その時の笑顔がまぁ爽やかで素敵で、私はキュンとして……






なんて……そんな展開ある訳ないか。

変な妄想してんじゃないよって自分に呆れながらも、暫くして野菜たっぷりクリーム雑炊を作り終えた私は、お盆に乗せて部屋に持って行ってあげた。

でも部屋に入ると、鈴木くんはスヤスヤと眠っていた。さっきまでは私に鬼の形相を向けていた鈴木くんが、こんなに気持ち良さそうにして眠っているなんて。若干微笑んでいるようにも見えた。不覚にも可愛いと思ってしまった。

このまま起こさないであげた方が良いのかな?そう思った私は、ベッドの横のローテーブルにお盆ごと置いて、キッチンに戻ってラップを取りに行った。それからお皿にラップをした後に、筆箱からペンを出して「温めて食べてね」とメモ書きを残し、私はこっそり部屋を出て、鈴木くんの家を後にした。





次の日、鈴木くんが学校にやって来た。

和彩には、

「里奈のパワーで治ったんじゃないの!?」

なんていじられたが、きっとそんなんじゃないと思う。でも、今日1日過ごす中で、鈴木くんに何か一言声をかけてもらえるんじゃないかってめちゃくちゃ期待していた。

めちゃくちゃ期待して、



1限目2限目……





気付けば放課後になっていた。



「般若のアホー!!」

とHR後の掃除の時に、そう窓から叫んだ。

「さすが般若。塩対応じゃん」

と、友達の希美のぞみに言われた。

「ホントだよ。てか、塩どころじゃないよ!激辛だよ!デスソースだよ!」

なんて話していると……背後からあの低い声が聞こえてきた。

「おい。おい!」

「ひゃっ!!」

別の人と会話でもしてんのかと思ったら、そうじゃなかった。彼は私に話しかけに来たのだ。希美はニヤニヤしながらサッとその場からいなくなった。

「な、何?」

何かと思えば、

「ん」

とあるペンを差し出してきた。あれ?これ…

「あ!このペン私の!」

鈴木くんの差し出してきたペンは、オレンジのマーカーペン。授業の時には別のペンでよく色付けするから、このペンが筆箱に無いことに気付かなかった。鈴木くんの部屋に置きっぱなしだったんだね。

「あぁ、メモ書いてそのまま置いてきちゃってたのか。ごめん。ありがとう」

と言ってお礼を言うと、鈴木くんは無表情のままコクンと頷いて、そのまま廊下へ出て行ってしまった。すると私は体が勝手に動いていて、気付けば廊下に出て鈴木くんの事を追い掛けていた。

「鈴木くん待って」

と声をかけると、鈴木くんはその場で止まってくれたので、私は恐る恐るこう尋ねた。

「昨日あの後……雑炊食べてくれた?」

「あぁ」

「そっか…。味、大丈夫だった?」

自分から感想を求めるなんて図々しかったかな?と思ったけど、発した後だったのでもう取り返しはつかない。でも鈴木くんは小さく、


「うん……」

と返事をしてくれた。

彼はずるいなぁ。普段は強面で冷たい態度ばかり取るのに、私の雑炊が美味しかったって肯定する時は、こんなにも照れた感じになるんだもん。ずるい。

般若のクソ野郎って昨日あれだけたくさん思ったっていうのに、またこんな鈴木くんを見せられちゃったら、前言撤回したくなっちゃうじゃん。

鈴木くんは、

「じゃあ」

と言って、そのまま歩いて行ってしまった。



私は教室の中に戻り、すぐに希美に抱きついた。

「どどど、どうしたの里奈!?」


あぁ、好きだよ……鈴木くん。



もっと鈴木くんを知りたいよ。


ごめんね、迷惑かもしれないけど、この気持ちに嘘は付けない。


「希美……ダメだわ。私、般若の事好きだわ…もう、なんでよりによって彼かなぁ……」



私のこの恋はまだ、始まったばかり。


いつか鈴木くんと結ばれる日が来れば良いのに。

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〈へぇ、あの子が昨日、拓馬の家に来たっていう子かぁ。……ふーん〉




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