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「あれ?鈴木くん、まだ戻ってきて無いんですか?」
「そうみたい。もう少ししたら病院行こうと思うのにまったく」
「諒子さん私、近くを見てきますよ」
「えぇ?里奈ちゃんこの辺分からないでしょう。迷子にならない?」
「大丈夫です!本当に戻れる範囲までしか探しに行かないので!」
諒子さんとそんな会話をした私は、鈴木くんを探しに家を出た。鈴木くん、居間のテーブルにスマホも置きっぱなしだから、電話で呼び出す事はできない。私はあっちこっちと10分ほど歩き回って彼の姿を探した。
その時、海の方に鈴木くんがいるのを発見した。ゴツゴツした岩場の上に立って、青い海を眺めていた。なので私はそこまで移動し、鈴木くんに声をかけた。
「鈴木くん!!」
鈴木くんは私の声に振り向き、細い目でこちらを見てきた。
うわ。足場がゴツゴツして歩きにくい。
「なんでいるんだ」
と鈴木くん。
「いや、そろそろ病院に行く時間だから迎えに来たの」
鈴木くんは私の言葉に特に返す訳でもなく、再びただただ海を眺め始めた。秋の終わりの海は寒く、風も強い。鈴木くんはその風に吹かれながら何かを思いふけているようだった。鈴木くんの様子を伺いながら
「鈴木くん、戻ろう?」
と声をかけると、鈴木くんは言った。
「諒子からさっき聞いたんだ。母さんの死の真相を」
そう切り出し、諒子さんとさっき何を話していたのかを私にも伝えてくれた。
「じゃあつまり……おばあちゃん達が鈴木くんを恨んでるっていうのは鈴木くんの勘違いだったかもしれないってこと?」
「あぁ」
私はそれを聞いて鈴木くんの肩を叩き、
「それなら早く真相を知りに行かないと!」
と言ったが、鈴木くんからはこんな言葉が。
「怖い」
「へ?」
「怖いんだ」
鈴木くんは今度は私の方を見てこう言った。
「あくまでこれは諒子の憶測に過ぎない。もしそれが違った時が怖い」
どうやら鈴木くんは真相を聞く勇気が出ないみたいだ。なので私は元気付ける為に鈴木くんの両手を持って笑顔で
「大丈夫!」
と言って手を振った。
「鈴木くん、リラックスだよ。ね?きっとおばあちゃん、鈴木くんの事ずっと待ってたんだと思うよ。自分に自信が無いんだったら、代わりに私を信じてよ!」
「お前を……?」
「うん。嫌だとか言うかもしんないけど。あと、もし万が一失敗だったら私のせいにすんの」
と私が言うと、鈴木くんはフッと吹いて歯を見せて笑いながら、
「なんだそりゃ」
と言った。その自然な笑顔はとても爽やかでかっこよかった。鈴木くん、こんな笑顔も人に出来るんじゃん。
「さーーむい!鈴木くん、寒いよ!戻ろ!?」
私は鈴木くんの手を離して自分の体を摩った。
「チッ。はいはい」
鈴木くんは腕を組んで、私を置いていくようにしてさっさと歩いて行ってしまった。
「ちょ、ちょっとー!女の子が足元不安定で躓きそうになってんぞー?」
「女?どこいるんだそんなもん」
「かちーーん!!はい頭来たー。お前マジでぶっ飛ばすからな!?」
「あー?風で聞こえん!!」
「はぁ!?この冷酷強面無愛想クソケチ般若!!!」
「んだと!?」
「聞こえてんじゃねぇかよ!!!!」
そんな会話を経て、私達は病院にやって来た。私と鈴木くん、諒子さんの3人で最初は話していたけど、そこで諒子さんが途中でトイレに行くと言って席を外した。もしかして?と思った私も、
「私もちょっと行ってきますね!」
と言って鈴木くんの事をおばあちゃんと2人きりにさせてあげた。
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「…………」
ばあちゃんに、まずなんて切り出せばいいんだ?
あー……。何も言葉が出てこない。
俺がまごまごしていると、先にばあちゃんから俺に声をかけてきた。
「拓馬、見ないうちに大きくなったわよね。身長なんぼあるの?」
「あ……身長?…あぁ、185……だったと思う」
「あらそう!そんなにあるの!おばあちゃん、だんだん腰が曲がって来たもんだからねぇ、この間勇に会った時にあれ?またちっちゃくなった?って言われたわよ」
ばあちゃんは相変わらずおしゃべりだ。俺はただただ頷き話を聞いていた。でも、そろそろあの真相を聞いておかないとだ。
でも、1人ではなかなか勇気が湧かずに話を切り出せずにいた。
そんな時、今朝のアイツとの会話を思い出した。
ーー自分に自信が無いんだったら、代わりに私を信じてよ!」
ーーお前を……?
ーーうん。嫌だとか言うかもしんないけど。あと、もし万が一失敗だったら私のせいにすんの
その言葉を頭の中に置いた状態で、
「あのさ……」
とやっとこさ小さい声ではあったが、ばあちゃんに話しかけることが出来た。
「ん?なんだい?」
「いや……その…………ばあちゃんは、俺の事どう思ってんだ」
「どうって?」
「だから……えっと…………俺が母さんを殺したとか……そういう事を………」
上手く言葉が出てこなかったが、ばあちゃんは何かを悟ったようで、こう話し出した。
「諒子から聞いたよ。拓馬が出て行った理由。おばあちゃん、拓馬が何の理由も言わずに出て行くって決めて、本当に出て行ってしまったからずっと気がかりだったんだよ。出て行って暫くしてから諒子から理由を聞いたけど、ばあちゃんが拓馬の事恨むはずがないだろう?」
それを聞いた俺は、ばあちゃんの目に視線を向けた。
こうしてばあちゃんの顔をちゃんと見るのはどれくらいぶりだろうか。ばあちゃんはとても優しい顔つきをしていた。
「妹達が話していたのは、茜を轢いた運転手の事であって、拓馬の事は私も妹達も、一言も悪く言ってないよ。拓馬は、おばあちゃんの大っっっ事な孫だよ」
それを聞いて、自分でも驚く程の大粒の涙が下に落ちた。
何かブワッと込み上げてくる思いがあった。
「辛かったよね。でも、お母さんはきっと拓馬に自分の事を責めたりしないでほしいって思ってるよ。拓馬、お母さんが守ってくれた命を大切にして、胸張って生きなさい。それが拓馬がお母さんにしてやれる、最大の親孝行だよ」
小学4年生で母さんを失って7年。7年間ずっと溜め込んでたんじゃないかと思わせるくらいの大量の涙が俺の目からボロボロと流れ落ちて行った。俺がばあちゃんのベッドの横でしゃがみこむと、ばあちゃんは俺の手を握り、もう片方の手で頭を撫でてくれた。
「拓馬。ヨシヨシ。いつでもばあちゃん家に帰って来て良いんだからね」
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鈴木くんとおばあちゃんの様子を病室のドアを2、3cmだけ開けてこっそり見ていた私と諒子さん。2人を見ていたら私達も泣けてきてしまった。
「やっと拓馬とばあちゃんが和解したわ……あぁ、ホントに良かった」
「はい。良かったです」
私の視線の先にいる185cmの大きい体をした鈴木くんが、小学4年生の幼い少年のようにも見えた。
それから寝る前の時間になり、私は鈴木くんに声をかけられた。
「ドジ田、ちょっと良いか?話がある」
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。