第19話

第6話 その3
58
2021/05/08 04:39
応急処置をしないとという頭になった私は、

「鈴木くん、怪我してる!来て!」

と言った。

「怪我?そんなもん別に…」

「良いから!ちゃんと水で洗った方が良いよ!」

と言って、無意識の内に私は鈴木くんの手を取り走り出していた。鈴木くんは諦めたからなのか、そのまま私に手を取られるがまま後を着いてきた。

「良いって!」

「ダメ!」

今は中庭の水道の所に2人でいる私達。ホースが繋がっている蛇口から水を出し、優しく鈴木くんの肩に水をかけた。

「っって!」

染みたのか、鈴木くんは方目を閉じ、痛がっている様子だった。

「じっとしてて」

「チッ」

それから鈴木くんの肩をハンカチで拭き取り、水気を綺麗に拭き取ってから絆創膏を取り出し、傷口に貼り付けた。

「はい、OK」

「……おう」

お礼くらい欲しいなって思ったけど、どうせ彼から言われる事は無いと分かっていたので、そこは妙に冷静になれた。そんな鈴木くんはソワソワしながら自分の髪の毛を触り、その場でため息をついた。

「どうしたの…?」

と尋ねると、

「いや……人混みはやっぱり嫌いだ。暑苦しい」

と言う答えがきた。

「あぁ、そうなんだ。苦手なんだね」

「あぁ」

と言い、鈴木くんは特にそこから動こうとしない。それどころか水道のコンクリートの壁にへばりつき、

「疲れた」

と言った。

「そっか。お疲れ様」

この時間……私はどうしたら良いんだろう?このまま…鈴木くんとここに一緒に居ても良いのかな?

「ふぅ……」

鈴木くんは一息付き、今度は突然顔を洗い出した。暑かったと言っていたから、スッキリしたかったのかな?私は何もせずただただ横にいるだけだ。でも、鈴木くんの素肌を間近で見るのはとてもドキドキした。体操着の上着は多分、応援席の為に校庭に出した、自分の机の椅子にでも置いてきてあるんだろう。
するとその時、

ピシャ!


「うわ!!」

いきなり鈴木くんが私に水をかけてきたのだ。

「な!何!?」

と驚くと、鈴木くんはクスクス笑いながら、

「“魚”にはやっぱり水がお似合いだな」

と言った。

「あ゛ぁ?」

私はその言葉を聞いて、つい反射的に眉間に皺を寄せて鈴木くんを睨みつけた。

「なんだその目は」

「この野郎!冷酷強面クソ般若!!!!応急処置してやった人に向かって水かけやがって!!!!」

「誰が般若だクソ野郎が!金目鯛みたいな目ん玉しやがって」

「はぁぁ!?」

私達は言い合いになり、何故かそれぞれが蛇口を捻って水を出しては、手ですくった水を相手に向かってかけ合い攻撃していた。

「この金目鯛!!!!」

「このクソ般若!!!!」

怒った私はホースを手にして、思い切り蛇口を捻って攻撃しようとした。どうせ相手は上半身裸だ。いくら濡れても、太陽もまだカンカン照りだし別にすぐ乾くだろ。
そんな事を思いながら勢いよく蛇口を捻ると……

「ぎゃあああ!!!!!!!!」

ホースが竜のごとく暴れ始めた。

「うわあああ!!!!!!!!!!助けて!!!!!!!!」

「アホ!!!!こっち来る前に止めろ!!!!!!!!」

私は暴れるホースから逃げて鈴木くんにしがみつき、結局鈴木くんが蛇口を捻って水を止めてくれた。


……ん?鈴木くんにしがみつき……!?





私、鈴木くんとハグしてました。






む、胸板が目の前に…!!!!


え?


えぇ!?






「ぎゃあああ!!!!!!!!」
「ぬおおおお!!!!!!!!」




私は鈴木くんに突き飛ばされ、


「こっ…こ、このドジ女!蛇口捻る加減も分かんねぇのか」

と怒鳴られてしまった。しかも、

「ドジ田だドジ田!お前はドジ田だ!」

なんて呼ばれる始末だ。私は心臓がバクバクとしたまま

「ドジ田!?私、吉田ですけど!!!」

と受け答えをした。

「丁度良い。お前にぴったりなあだ名じゃないか!それとも何か?金目鯛の方が良いのか?」

と鈴木くんは、何とも嫌味ったらしい顔でそう言ってきた。

「この悪魔クソ般若め!!髪濡れたし最悪!!」

と言いながら、首にかけていたタオルで、自分の髪の毛を拭いた。

「お前がホースの蛇口思いっきり捻るからだろ。自業自得だ」

「はぁ!?お前が私に水かけてきたからだろうが!」

もう。どうして?どうして鈴木くんとすぐ言い合いになってしまうんだろう。私、全然鈴木くんに女の子らしい所見せられてないじゃん。
こんなんじゃどんどん嫌われちゃうよね。と、気持ちがだんだんと落ちていった。その時だった。


「貸せ」


「え…?」



鈴木くんは私が使っているそのタオルを奪い取り、自分の髪の毛の上にパサりとかけた。





その瞬間、鈴木くんと目が合いドキドキした。ほんの少しの時間だったのに、なんだか時が止まったような感覚になった。





「俺の方が濡れてんだよ。貸せ」

と言って、鈴木くんはワシャワシャとそのタオルで自分の髪を拭きながら、私を置いて歩き出した。

「ちょ!……タオル返してよクソ般若!」

「あ゛?」

鈴木くんを追い掛けてタオルを取り上げようとするも、鈴木くんは意地悪で、タオルを手に持ち高らかに上に挙げだした。そんなことされたらもう届かない。


「このチビドジ田が。ざまぁ」





と言って笑顔を向ける鈴木くんだが……私はこんな悪魔みたいな笑顔を向けて欲しいんじゃなーーーーい!!!!!!!!






結局タオルを取られたままの私。そうこうしている間に部活対抗リレーの時間がやって来た。

バレー部である窪塚くんも出るらしいし、テニス部の希美も出る。そして健吾も弓道部として出る。

「里奈?あれさっきの健吾くん?」

と亜由。

「あぁ、そうそう!」

健吾の袴姿、良い感じに似合ってるなぁ。ちょっとかっこいいかも。さっきたくさん愚痴を聞いてもらったし、健吾の事をたくさん応援してあげよう。

「健吾!頑張れ!行けー!!」

健吾は袴姿ながら、意外と足が速かった。袴じゃなかったらもっと速く走れるんだろうな。

「ほら!里奈!健吾くんかっこいいじゃん!」

と亜由が私の肩を叩きながらそう言ってきた。

「まぁ、かっこいいにはかっこいいよね」

そんなにかっこいいかっこいいと言われると、ちょっと意識しちゃうじゃん…。でも、私からしたら一番かっこいいのは鈴木くんだ。

部活対抗リレーが終わった後、袴姿のままの健吾に出くわした為、声をかけに行ってあげた。

「健吾やるじゃん!見てたよ!」

「あ!ホント!?」

「うん!かっこよかった!袴なのに走るの速くてびっくりしちゃった」

「へへへ、そう!?照れるじゃんか!」

そんな話をした後、普段健吾の袴姿を見る機会が無いことから、私は健吾に

「ねぇ、写真撮ろうよ!」

と伝えた。

「おお、良いよ!」

それから自撮りモードにして健吾と良さげな2ショットが撮れた。

「里奈ちゃん、後でそれ送って!」

「うん!送る送るー!」

和気あいあいと話し、健吾に手を振ってその場を後にした私。そういえば鈴木くんの姿が見当たらない。どこにいるんだろう。別の所から観戦してたのかな??

タオルはいつ返してくれるんだか……。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

部活対抗リレー後、俺がこっちに戻って来ると、拓馬が見覚えのないタオルを頭にかけながら、自分の椅子に座ってなんだかソワソワしていた。

「どうした?」

と声をかけると、

「恭平。女子っていうのは誰に対してもかっこいいって簡単に言う生き物なのか?」

と、訳の分からない発言をしてきた。

「は?」

「いや、その……だから……かっこいいって言葉は、社交辞令か何かなのか?」

「ん?話が読めん。どういう事?」

珍しく拓馬は、モヤモヤしてそうな顔付きをして、頭を掻いたり貧乏ゆすりをしたりと、まるで落ち着きがない様子だったのだ。

「あー、もう良い!忘れろ」

拓馬は椅子から立ち上がり、どこかへ行ってしまった。

拓馬、俺が不在の間に何があったんだ?






NEXT▷▶︎▷▶︎第7話 「彼は人間不信」
今回もご覧頂きありがとうございました😍‼️
キュンキュンして頂けましたでしょうか?🥰

最後の鈴木の言葉の意味と、そんな発言をする理由はと一体…!?😳

感想お待ちしてます(@♡▽♡@)
第7話もお楽しみに🎶

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