お互いに恥ずかしくなってしまったのか、どちらも手を伸ばそうとしなかった為、その手が再度繋がれることは無かった。
鈴木くんとは途中から路線が違うが、でも鈴木くんは、
「良い。今日くらい家まで送る」
と言ってくれた。
なので鈴木くんと一緒に私の家の最寄り駅で降りて、2人で大通り沿いを歩いて家の方向へ進んで行った。
もう一度手を繋ぎたい。あぁ、でも急に私から握ったりしたら鈴木くん、嫌がるかな?どうだろう。そんなことを迷いながら、鈴木くんの顔をまともに見れなかった私は、道路沿いの方ばかりを見る。
その時、中央分離帯の上に野良猫がいるのを見つけた。
「あ…猫……!!」
あんな所にいて、めちゃくちゃ危ないじゃん。
昔私は、家族で車で出かけている時に、道路に貼り付いたとある茶色いものを見たことがあった。
お母さんは言った。
「ヤダ!猫じゃない?今の」
そう、その茶色い物とは猫の死体。車に轢かれて潰れてしまっていたのだ。
それを知った時に、ショックを受けたのを覚えている。
あの猫ちゃんにそんな風になって欲しくない。
「鈴木くん、猫!」
「え?」
私は1段高くなっているその中央分離帯を指さした。
「あんな所にいたら危ない!」
すると、その野良猫は中央分離帯からピョン!と飛び出した。
「ダメ!!」
と叫んで、私は軽く右左を見て、一目散に中央分離帯へ走り出した。
そのはずだった。
「里奈!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
私が2、3歩ほど道路に走り出たくらいの所で、
鈴木くんに物凄い勢いで腕を掴まれ、助けに行くのを止められたのだ。
「きゃっ!!!!」
飛び出した猫ちゃんはというと……
よく見ると、向こうの歩道をステステと歩いて行くのが見えた。どうやら無事に渡れたらしい。それを見て安心した私は、ふぅっと一息を着いた……が
安心していない人が一人。
鈴木くんは私の事を建物の壁に押し付けるようにして追い込み、力強く私の両肩を持って、
「バカ野郎!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
と鼓膜が破けそうになるくらいの大きな声でそう叫んだのだ。
鈴木くんのその目は見開き血走っていて、息遣いもとても荒い。怒りを通り越した、逆鱗に触れたような顔をしていた。
「だって、猫ちゃんが……」
あの動物大好きな鈴木くんが、今の私の行動を止めるなんて私には考え付かなかった。
「それより大事なのは自分の命だ!!!!!!!!!!」
私が言葉を発するも、鈴木くんの物凄い勢いで飛んでくる一言で、その声は一撃でかき消された。
「お前の身勝手な行動で、二次災害を起こすことだってあるんだぞ!?!?!お前のエゴなんてどうだって良いんだよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!もっと周りの事を考えろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
鈴木くんの言葉はご最もだった。
ご最もな事を言われてしまった事と、あまりの鈴木くんの迫力に怯んでしまった私は、その場で目を丸くして動けなくなった。
鈴木くんは目の前で荒く息をして、震えていた。こんな鈴木くん、見た事ない。
今の彼の目は、人殺しを連想させるような、冷たくて鋭く恐ろしい目をしていた。
ーー俺は……人殺しだ
前に言っていたこの言葉を思い出す私。
ねぇ、鈴木くんは本当に人殺しなの?
まさか…………ね?
「ごめんなさい……」
私は鈴木くんに小さい声で謝ると、鈴木くんは物凄く乱暴に私の手を引き、そのままギュッと私を抱きしめた。
「ふざけんな…。ホントに。こんな事もう二度とすんな」
震える鈴木くんの振動が私の体にも伝わってくる。この状態はただ物じゃない。私、鈴木くんに対して相当な事をしてしまったのでは?
何か嫌な事を思い出させてしまったのかな?
こんなに震えてるし、心配だ。
なので私は鈴木くんに
「鈴木くん、震えてるよ。大丈夫?」
と尋ねた。
「へっ!?」
鈴木くんはそれを聞いてパッと私を解放した。
「すまん……取り乱した。行こう」
鈴木くんはそう言ってそのまま道を歩き出した。私はそんな鈴木くんの手を掴んで、
「ねぇ、過去に何かあったの?」
と尋ねた。
鈴木くんは私のその問いかけを聞いて酷く動揺し、目をあちらこちらに泳がせ、尚のこと息遣いを荒くした。
「いや……別に」
「鈴木くん……ねぇ、答えてよ。ねぇ、鈴木くん!」
私がそう言い寄るも鈴木くんは頭を抱えて首を横に振るばかりだ。
「そんなに体も震えて、心配だよ。鈴木くん、どうしたの?」
「あああ…さっきのことは忘れてくれ」
一生懸命鈴木くんに寄り添おうとしているのに、鈴木くんはちっとも私に口を割ろうとしてくれない。
「鈴木くん、お願い。話して?」
挙句の果てには鈴木くんにこんな事を言われてしまった。
「いい加減にしてくれ!!!!お前には関係ない!!!!!!」
「え………!?」
「お前は所詮他人だ!!!!!!!!他人のくせに、俺の過去にズカズカと足を踏み入れてくんな!!!!!!!!!!」
と、鈴木くんは声が枯れる程の大きな声でそう怒鳴ってきた。
あぁ、そうなんだ。
鈴木くんにとって私はただの他人なんだね。
今日だってずっと一緒に居たのに、こんなのあんまり過ぎる。
私は目から涙が溢れてきた。
〈しまった……言い過ぎた!〉
鈴木くんは突如ハッとして、小さくえっと…と呟いていたが、私はそんな鈴木くんに対して、
「もう良い!!!!」
と言って、鈴木くんを置いて走り去った。
家に帰ってきた私は、部屋に閉じこもって1人で大泣きした。
こんなに胸が締め付けられる想いになるのは初めてだった。
鈴木くんに他人と言われた事がとてもショックだった。
半年間、ずっと鈴木くんの事を想ってきたのに。思い出だって増えてきたのに、それなのに私はまだ他人なの?
今日だって手だって繋いでくれたのに、
あれは、仕方なく握ってくれてたの?
もう、鈴木くんの事が全く分からない。想っても想っても、全然前に進まない。
鈴木くんに私の気持ちが届くことは一生来ないのだろうか。
あなたの心の底には、一生触れることが出来ないの?
私は鈴木くんの事を想いながら、ずっと泣き続けた。
それから次の日の日曜日、私はとある人物に連絡をして、その人物のところに会いに行った。
NEXT▷▶︎▷▶︎その3
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。