第40話

第12話 その2
53
2021/05/13 03:18
お互いに恥ずかしくなってしまったのか、どちらも手を伸ばそうとしなかった為、その手が再度繋がれることは無かった。

鈴木くんとは途中から路線が違うが、でも鈴木くんは、


「良い。今日くらい家まで送る」


と言ってくれた。

なので鈴木くんと一緒に私の家の最寄り駅で降りて、2人で大通り沿いを歩いて家の方向へ進んで行った。

もう一度手を繋ぎたい。あぁ、でも急に私から握ったりしたら鈴木くん、嫌がるかな?どうだろう。そんなことを迷いながら、鈴木くんの顔をまともに見れなかった私は、道路沿いの方ばかりを見る。


その時、中央分離帯の上に野良猫がいるのを見つけた。

「あ…猫……!!」

あんな所にいて、めちゃくちゃ危ないじゃん。

昔私は、家族で車で出かけている時に、道路に貼り付いたとある茶色いものを見たことがあった。

お母さんは言った。

「ヤダ!猫じゃない?今の」

そう、その茶色い物とは猫の死体。車に轢かれて潰れてしまっていたのだ。
それを知った時に、ショックを受けたのを覚えている。

あの猫ちゃんにそんな風になって欲しくない。


「鈴木くん、猫!」

「え?」

私は1段高くなっているその中央分離帯を指さした。

「あんな所にいたら危ない!」

すると、その野良猫は中央分離帯からピョン!と飛び出した。

「ダメ!!」

と叫んで、私は軽く右左を見て、一目散に中央分離帯へ走り出した。







そのはずだった。







「里奈!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」






私が2、3歩ほど道路に走り出たくらいの所で、

鈴木くんに物凄い勢いで腕を掴まれ、助けに行くのを止められたのだ。

「きゃっ!!!!」


飛び出した猫ちゃんはというと……


よく見ると、向こうの歩道をステステと歩いて行くのが見えた。どうやら無事に渡れたらしい。それを見て安心した私は、ふぅっと一息を着いた……が




安心していない人が一人。


鈴木くんは私の事を建物の壁に押し付けるようにして追い込み、力強く私の両肩を持って、





「バカ野郎!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」






と鼓膜が破けそうになるくらいの大きな声でそう叫んだのだ。

鈴木くんのその目は見開き血走っていて、息遣いもとても荒い。怒りを通り越した、逆鱗に触れたような顔をしていた。

「だって、猫ちゃんが……」

あの動物大好きな鈴木くんが、今の私の行動を止めるなんて私には考え付かなかった。


「それより大事なのは自分の命だ!!!!!!!!!!」


私が言葉を発するも、鈴木くんの物凄い勢いで飛んでくる一言で、その声は一撃でかき消された。




「お前の身勝手な行動で、二次災害を起こすことだってあるんだぞ!?!?!お前のエゴなんてどうだって良いんだよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!もっと周りの事を考えろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」





鈴木くんの言葉はご最もだった。


ご最もな事を言われてしまった事と、あまりの鈴木くんの迫力に怯んでしまった私は、その場で目を丸くして動けなくなった。



鈴木くんは目の前で荒く息をして、震えていた。こんな鈴木くん、見た事ない。







今の彼の目は、人殺しを連想させるような、冷たくて鋭く恐ろしい目をしていた。




ーー俺は……人殺しだ



前に言っていたこの言葉を思い出す私。


ねぇ、鈴木くんは本当に人殺しなの?






まさか…………ね?





「ごめんなさい……」


私は鈴木くんに小さい声で謝ると、鈴木くんは物凄く乱暴に私の手を引き、そのままギュッと私を抱きしめた。



「ふざけんな…。ホントに。こんな事もう二度とすんな」




震える鈴木くんの振動が私の体にも伝わってくる。この状態はただ物じゃない。私、鈴木くんに対して相当な事をしてしまったのでは?


何か嫌な事を思い出させてしまったのかな?

こんなに震えてるし、心配だ。
なので私は鈴木くんに


「鈴木くん、震えてるよ。大丈夫?」


と尋ねた。


「へっ!?」



鈴木くんはそれを聞いてパッと私を解放した。


「すまん……取り乱した。行こう」


鈴木くんはそう言ってそのまま道を歩き出した。私はそんな鈴木くんの手を掴んで、

「ねぇ、過去に何かあったの?」

と尋ねた。


鈴木くんは私のその問いかけを聞いて酷く動揺し、目をあちらこちらに泳がせ、尚のこと息遣いを荒くした。

「いや……別に」

「鈴木くん……ねぇ、答えてよ。ねぇ、鈴木くん!」

私がそう言い寄るも鈴木くんは頭を抱えて首を横に振るばかりだ。

「そんなに体も震えて、心配だよ。鈴木くん、どうしたの?」

「あああ…さっきのことは忘れてくれ」

一生懸命鈴木くんに寄り添おうとしているのに、鈴木くんはちっとも私に口を割ろうとしてくれない。


「鈴木くん、お願い。話して?」


挙句の果てには鈴木くんにこんな事を言われてしまった。







「いい加減にしてくれ!!!!お前には関係ない!!!!!!」






「え………!?」




「お前は所詮他人だ!!!!!!!!他人のくせに、俺の過去にズカズカと足を踏み入れてくんな!!!!!!!!!!」




と、鈴木くんは声が枯れる程の大きな声でそう怒鳴ってきた。



あぁ、そうなんだ。



鈴木くんにとって私はただの他人なんだね。



今日だってずっと一緒に居たのに、こんなのあんまり過ぎる。



私は目から涙が溢れてきた。



〈しまった……言い過ぎた!〉


鈴木くんは突如ハッとして、小さくえっと…と呟いていたが、私はそんな鈴木くんに対して、


「もう良い!!!!」


と言って、鈴木くんを置いて走り去った。




家に帰ってきた私は、部屋に閉じこもって1人で大泣きした。

こんなに胸が締め付けられる想いになるのは初めてだった。


鈴木くんに他人と言われた事がとてもショックだった。


半年間、ずっと鈴木くんの事を想ってきたのに。思い出だって増えてきたのに、それなのに私はまだ他人なの?


今日だって手だって繋いでくれたのに、


あれは、仕方なく握ってくれてたの?


もう、鈴木くんの事が全く分からない。想っても想っても、全然前に進まない。


鈴木くんに私の気持ちが届くことは一生来ないのだろうか。


あなたの心の底には、一生触れることが出来ないの?



私は鈴木くんの事を想いながら、ずっと泣き続けた。








それから次の日の日曜日、私はとある人物に連絡をして、その人物のところに会いに行った。






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