前の話
一覧へ
次の話

第3話

お隣さんと、ベランダで
2,762
2020/08/06 04:00
お隣さん
お隣さん
……それ、ほぼ初対面の男に話していいの? 俺が悪い奴かもしんないじゃん。何かされても、顔覚えられないんだろ
上村亜美
上村亜美
あ、本当ですね。じゃあ、今のは秘密ってことで
お隣さん
お隣さん
なんだそれ
そんな会話で、お隣さんの雰囲気がちょっと和いだ気がした。
上村亜美
上村亜美
(よかった。口元が笑ってる)
私は、昨日からベランダに出しっぱなしにしていたハンガーに、服を吊るしていく。
上村亜美
上村亜美
モザイク症だからって、男の人が全然見分けられないっていうわけでもないんですよ。もちろん、皆さん髪型も髪色も違うし、声だって違いますので
上村亜美
上村亜美
ただ、口元でしか表情が見えないから、どうしても目を合わせて話すことは出来ないけど
お隣さん
お隣さん
……いつから?
お隣さんが、少し聞きづらそうに問いかけてくる。
上村亜美
上村亜美
去年です。15歳の時。小さい頃から発症していたなら、諦めもつくんでしょうけど。ギリギリアウトでした
U16型ウイルスは、16歳までに発症しなければ、その後は一生発症することはないと言われている。
体内にウイルスが潜伏していても、それまでに発症さえしなければ自然と死滅してしまうらしい。
上村亜美
上村亜美
(あと、一年だったんだけどなぁ……)
お隣さん
お隣さん
……
ほぼ初対面の女にこんな話をされ、困ってしまったのだろうか。
お隣さんが、黙り込んでしまった。
お隣さん
お隣さん
なんていうか、た、大変だったんだな
言葉をたくさん選んでくれたのだと思う。
お隣さんは、何度か口を開いては閉じを繰り返した後、声をかけてくれた。
それがとても嬉しくて、クスッと笑ってしまう。
上村亜美
上村亜美
優しいんですね。大丈夫です。なっちゃったものは、しょうがないって分かってるから
お隣さん
お隣さん
……
お隣さんは再び黙り込んでしまい、私は無意識に鼻歌を再開させる。
上村亜美
上村亜美
“君に会いに行く理由が欲しい 僕たちの関係に名前はない”
それは、少し前に動画サイトに投稿され、10代の女子を中心に流行った曲。
お隣さん
お隣さん
……その歌、さっきから歌ってるな
上村亜美
上村亜美
あれっ、私また歌ってましたか? 恥ずかしいな……。大好きな曲だから、つい歌っちゃうんです
お隣さん
お隣さん
ふーん……
お隣さんはそれだけを残すと、自分の部屋の中へ戻っていった。
私も洗濯物を全て干し終わり、部屋に戻る。
そして、壁に背を当てて、ズルズルと崩れ落ちた。
ドキドキが収まらなくて、誰も見ていないところで口を押さえる。
上村亜美
上村亜美
(き、緊張した……! 私、変じゃなかったかな……)
上村亜美
上村亜美
(まさか、昨日の今日で会うなんて思わなかった)
深呼吸を繰り返して、やっとの思いで立ち上がり、家事の続きへと戻った。



----------------------------------------
「プリ小説」での試し読み掲載はここまで!
続きは好評発売中の書籍「色のない世界で、君と」に収録されていますので
ぜひお手に取ってご覧ください!

プリ小説オーディオドラマ