あれから、私と笠井君は仲良くなった。
話してみると楽しくて、学校生活が楽しい、と初めて思ったくらいに。明るい気持ちになったからか、性格も変わり、前よりハキハキ話せるようになった。ねぇねぇ、とかおい、とかで互いに話しかけるので、名前を呼ぶことはないけれど。でも、心の中で私は、紅雅と呼び捨てで呼ぶことにした。
しっかし紅雅も困ったヤツだな…いつもは明るいのに、些細なことで泣いてしまう。ちょっとした冗談で泣いていたらダメじゃない…もう。
今日も、後ろの席で、紅雅は泣いてる。
紅雅はよく泣くから、と一部の人に避けられていることを私は知っていた。良い人なのに…。紅雅の悪口を聞くと、嫌な気分になる。
だから…一発、ガツンと言ってやろう。
と言った。私が言っただけでは変わらないかもしれないが、せめて少し良くなれば…紅雅も悪く言われないようになるかもしれない、と思ったからだ。
最初の方、なんと言ったのだろう…でも、聞いても紅雅は答えてくれなかった。
「もう泣かない」なんてあまり信じてなかったけれど。その場の勢いだと思っていたけれど…でも宣言通り紅雅はその日から泣かなくなった。
私の言葉がきっかけ?…まあ、違うか。それだけじゃないよね…他になにかきっかけでもあったのかな?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!