プリ小説

第7話

7*
その日の夜遅く。
私は先程ホテルの1階で購入したペットボトルの飲み物を手に、エレベーターを降りた。

「はぁ……」

結局、今日は全然世良くんと話せなかったな……。

ため息をつき、ポケットから鍵を取り出す。そこには私とみなみちゃんが泊まる部屋の番号が書いてあった。
その番号の部屋まで廊下をとぼとぼ歩いていると、後方から誰かの声がした。

「ねぇ」

強気な声。ついビクッと肩が跳ねた。
相手を振り返る前から、誰なのかは分かっていた。

「……日野さん」
「何、楪さん一人なの?みなみは?」
「みなみちゃんは、お兄さんから電話かかってきたから先に部屋戻っててって……それで」
「ふうん」

日野さんは周囲を確認するようにちらりと目線を動かした。
その行動で気付く。
ここ、ホテル3階の廊下には、今、私と日野さんしかいないということに。

「楪さん」
「はっ、はい」
「私ね。亮くんが好きなの」

ドクン。と、心臓が嫌な音で鳴った。
無意識に右手を握りしめる。

「楪さんも亮くんを好きだろうが、私は遠慮しない。本気で亮くんが好きだから。そういうものでしょ?」

日野さんの問いかけには、答えられなかった。
少なくとも私は、そんな風にできない。恋敵ライバルにも遠慮してしまう。

日野さんが思う“恋”の形は、私と真逆のようだ。

「……なんで亮くんはこんな子を……」
「え……?」
「こんな、大して可愛くもなくて、全然自分から動かない楪さんのどこが」
「梓ちゃん」

唐突に、私より少し大きな背中が目の前に現れた。
まるで日野さんから私を守ってくれるように立ち、みなみちゃんはハッキリと告げる。

「あなたは素直でいい子だよ。それ以上言ったら、怒る」
「……私は、楪さんが亮くんに相応しいとは思えない。だから諦めない」
「相応しいよ。そばで見てれば分かる」

みなみちゃんは私の手を引いて、部屋へ歩き出した。

「行こ、あなた」

何かみなみちゃんを引き止める言葉を言おうとして、飲み込んだ。
引き止めたとして、私はどうしたいんだろう。日野さんと言い合うみなみちゃんみたいな度胸は、私にはないのに。

後ろ髪を引かれる思いを抱えながら、私はみなみちゃんと共に部屋に入った。

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さとう
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