プリ小説

第8話

8*
部屋に入ると、みなみちゃんは一旦手を離して、正面から私の両肩を掴んだ。

「大丈夫だった?あなた。ごめん、まさか梓ちゃんと出くわすとか思わなくて」
「大丈夫、何もされてないよ。……でも」
「でも?」
「……私が世良くんを好きでも、遠慮しないって、言われた」

日野さんの表情を思い出す。
あの時、揺るぎない意志と覚悟を帯びた強い目から逃げるように私は俯いてしまった。

みなみちゃんが透明な瞳でじっと見つめてくる。

「みなみちゃん……。世良くんが好きな私は、世良くんを好きな日野さんに、遠慮しちゃダメなのかな」
「当たり前でしょ」

間髪入れずに即答された。
びっくりして言葉を失っていれば、みなみちゃんは呆れたような顔をした。

「そこ分かってなかったら何もできないよねぇ……あなたらしいけど、それじゃ5年後も10年後も今のままだよ?」
「じゅ、10年後も……」

嘘だろうと思ったが、よく考えると間違いではない。
片想いなのだから、自分から動かなければ何も起きず、ただの友達のまま終わってしまうのだ。

「まぁ明日頑張ってみ。あなたならいけるよ」

私を励ますように笑って、みなみちゃんが靴を脱ぎ、ベッドのある室内へ進む。
横に並んだ二つのベッドから、先生に厳守と言われた消灯時間を連想し、急いで靴を脱いであとを追いかけた。

「じゃ、おやすみー」
「おやすみ」

それぞれベッドに寝転び、挨拶を交わして消灯する。
私はみなみちゃんに背を向けるように寝返りを打ち、壁と向かい合わせの姿勢で目を閉じた。
今日あったこと、世良くんの笑顔、日野さんやみなみちゃんの言葉が頭の中を流れていく。

……うじうじしてないで、私も日野さんみたいにアタックするべきなのに。

『ごめん。俺、楪さんのことそういう風には――』

――もし、そうやって言われたら。

湧き出る不安を押し込めるように、布団の中で体を丸くする。

怖いよ。勇気ってどこから出てくるの?どうやったら出せるの?

「当たって砕けろ」なんて言うけど、砕けるか以前に、私は好きな人に当たっていくことすらできないよ。





同時刻、4階にある世良と瀬戸の部屋では、二人が眠りにつこうとしていた。
ベッドに横になり、電気を消す。

「瀬戸」
「あ?なんだよ」

突然の呼びかけに応じながら、瀬戸は嫌そうだった。寝ようとしたところを邪魔されたのだから当然だろう。
世良は「ごめん、すぐ終わるから」とすまなそうに言って、一つの質問をした。

「楪さんのこと好き?」
「あ?んなわけ、」

否定しかけた瀬戸は、ふと言葉を止めた。
世良の考えていることが分かったのだ。そして――それは利用できると思った。

「……まぁ、好きだな」
「!」
「いい奴だしあいつ。あんま目立たねェけど」
「……そっか。ありがとう、瀬戸」

礼を述べる世良の声は少し震えていた。
瀬戸の心を罪悪感が掠めたが、さっさとくっつかないこいつらが悪いと自決して瞼を下ろす。

「…………」

世良は、瀬戸の寝息が聞こえ始めてからもなかなか寝ず、苦しげな表情で何かを悩んでいた。

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さとう
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