駅からは、猛ダッシュ! 休むことなく走った私は、秘密基地のドアの前で立ち止まると、何回も深呼吸を繰り返した。
走ったのと緊張で心臓がどっどっどっど……と、すごいことになっている。すうっと息を吸った。
部屋の中からズンズンと小さな音が漏れ聞こえてきて、耳を澄ました。
急いでインターフォンを押した。
響より低い、知らない男の人の声だった。
ドキドキしながら待っていると、ゆっくりドアが開いた。
うちの学校の制服を着た上級生が出てきて、男子としゃべるのが苦手な私は緊張を強めた。
部屋の中から響が現れて、思わずほっとしたのが伝わったんだと思う。目が合うと響は、口元をほころばせた。そして譲二さんに細い目を向けた。
響はそれでも疑いの目を向ける。
譲二さんは、急に笑顔で自己紹介をしてきた。
自己紹介されたから私もするのが礼儀だろうと、ぺこりと頭を下げた。
二人が私に背を向け、部屋の奥へ入って行く。
何やら二人が私の話をしている。
「お邪魔します」と遠慮ぎみに言ってから私も中に入った。
譲二さんが不意に振り向き、話しかけてきた。
あまり成果がなくつい沈んだ声で答えていると、響が譲二さんに向かって代わりに説明をしてくれた。
譲二さんは、少し驚いた様子だった。
嬉しくてにこにこしていると、それを見た譲二さんがふっと笑った。
譲二さんの反応に気がついた響が冷めた目を向ける。
なんでもないと言いながらも、譲二さんは明らかに何か言いたげな表情で、にやにやしながら響を見た。
響は譲二さんの視線を無視するように話を打ち切ると、ソファがあるボックス席を指さした。
ずっと気にはなっていた。いよいよその内容を教えてもらえると、胸がわくわくした。
ちゃんと聞こうと姿勢を正していたら譲二さんがゆっくり話しはじめた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!