第19話

第5章 秘密の特訓-5
322
2018/11/19 02:58
駅からは、猛ダッシュ! 休むことなく走った私は、秘密基地のドアの前で立ち止まると、何回も深呼吸を繰り返した。
走ったのと緊張で心臓がどっどっどっど……と、すごいことになっている。すうっと息を吸った。
幸崎花音
幸崎花音
……あれ?
部屋の中からズンズンと小さな音が漏れ聞こえてきて、耳を澄ました。
幸崎花音
幸崎花音
(中で音楽が鳴ってる! 早く入りたい……!)
 急いでインターフォンを押した。
『……はい』
幸崎花音
幸崎花音
あのっ、幸崎花音です。開けてもらってもいいですか?
響より低い、知らない男の人の声だった。
幸崎花音
幸崎花音
(……メンバーの人かな?)
ドキドキしながら待っていると、ゆっくりドアが開いた。
君が幸崎さん? はじめまして。どうぞ入って
うちの学校の制服を着た上級生が出てきて、男子としゃべるのが苦手な私は緊張を強めた。
幸崎花音
幸崎花音
(響くらい背が高い……。ノーネクタイで少し茶髪だし、おしゃれ。バンドマンって感じ!)
佐鳥響
佐鳥響
譲二。花音来た?
幸崎花音
幸崎花音
(あ。響だ!)
部屋の中から響が現れて、思わずほっとしたのが伝わったんだと思う。目が合うと響は、口元をほころばせた。そして譲二さんに細い目を向けた。
佐鳥響
佐鳥響
……花音に何かした? 固まってるんだけど
氷室譲二
俺は何もしてない! ドアを開けただけだ
響はそれでも疑いの目を向ける。
氷室譲二
……とりあえず、自己紹介。俺はRAISEのドラマーで氷室譲二です
譲二さんは、急に笑顔で自己紹介をしてきた。
幸崎花音
幸崎花音
はじめまして。私は幸崎花音……です
自己紹介されたから私もするのが礼儀だろうと、ぺこりと頭を下げた。
佐鳥響
佐鳥響
譲二はうちのリーダーなんだ
幸崎花音
幸崎花音
え。響がリーダーじゃないの?
佐鳥響
佐鳥響
うん。……話は中で。花音、どうぞ入って
二人が私に背を向け、部屋の奥へ入って行く。
氷室譲二
……響お前、まさか花音ちゃんの名前が気に入って……
佐鳥響
佐鳥響
名前? 気に入ってるけど?
何やら二人が私の話をしている。
幸崎花音
幸崎花音
(響と譲二さん、仲よさそう。会話に入りづらいな……)
「お邪魔します」と遠慮ぎみに言ってから私も中に入った。
氷室譲二
あ、そういえば、響から聞いたんだけど
譲二さんが不意に振り向き、話しかけてきた。
氷室譲二
花音ちゃんって翔探しもしてくれているんだってね?
幸崎花音
幸崎花音
はい。……だけど、私も連絡取れなくて……
佐鳥響
佐鳥響
花音は、翔の実家に行って母親と話をしてきてくれたんだ
あまり成果がなくつい沈んだ声で答えていると、響が譲二さんに向かって代わりに説明をしてくれた。
氷室譲二
へえ? 実家にまで? それはありがとう
譲二さんは、少し驚いた様子だった。
佐鳥響
佐鳥響
翔との連絡は花音に任せてる。会わせてくれさえすれば、あとは俺が話をするから
幸崎花音
幸崎花音
私、頑張りますね!
嬉しくてにこにこしていると、それを見た譲二さんがふっと笑った。
佐鳥響
佐鳥響
……何? 譲二
譲二さんの反応に気がついた響が冷めた目を向ける。
氷室譲二
いや。なんでもない
なんでもないと言いながらも、譲二さんは明らかに何か言いたげな表情で、にやにやしながら響を見た。
佐鳥響
佐鳥響
花音、とりあえずそこのソファにでも座って。MVについて説明する
響は譲二さんの視線を無視するように話を打ち切ると、ソファがあるボックス席を指さした。
幸崎花音
幸崎花音
あ、はい!
幸崎花音
幸崎花音
(……MVの彼女役って、具体的に何をするんだろう?)
ずっと気にはなっていた。いよいよその内容を教えてもらえると、胸がわくわくした。
ちゃんと聞こうと姿勢を正していたら譲二さんがゆっくり話しはじめた。

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