第12話

第4章 チャンスはつかむもの-5
399
2018/11/05 02:03
パッと顔を両手で押さえた。『幸崎さんがいい』が、今度は頭の中でリフレインを始める。
キョウ
キョウ
でも心配しないで。出演といっても顔は出さない。変装してもらうから
幸崎花音
幸崎花音
……変装、ですか?
キョウ
キョウ
うん。MVの彼女役が幸崎さんだってバレて、迷惑をかけないように
説明をうけても、いまいちぴんと来ない。
幸崎花音
幸崎花音
(何か理由があるのかな? というか、これ以上深く考えられない……!)
パニックになりながらもMV制作に関われるということは、もっと曲を聴くことができると単純な私は嬉しくなった。
幸崎花音
幸崎花音
やります。やらせてください! 手伝います!
前のめりに、全力で引き受けていた。
キョウ
キョウ
ありがとう。……ごめん。飲み物も出さずに。ちょっと待ってて
話が一段落したところでキョウはソファの横にある冷蔵庫のドアを開けた。
私はずっとバクついている胸にそっと手を当てる。
幸崎花音
幸崎花音
(キョウを近い距離で初めて見たけど、やっぱり、……すごくかっこいい……。声も素敵だけど、目が……とても綺麗。まつげ長いし、瞳の色が明るい茶色!)
ステージの下からだと見ることができなかったキョウの細かなパーツを、間近で見られて嬉しかった。
キョウ
キョウ
幸崎さん
幸崎花音
幸崎花音
は、はいいっ!
突然話しかけられて、裏声気味に返事をした。
キョウ
キョウ
飲み物、りんごジュースしか今ないけど、飲める?
幸崎花音
幸崎花音
りんごジュース? 大好きです!
キョウ
キョウ
そう、よかった。ちょっと待ってて
ふわりと微笑むとキョウは再び背を向けた。
幸崎花音
幸崎花音
(……キョウってなんかライブの時と違うかも? 制服姿だからかな。別人みたい。歌っていないし、楽器も持っていないから?)
大人っぽくて落ち着いた雰囲気のキョウを見て、こっちはこっちで素敵だなとか、彼女役って何をすればいいの? とか、頭の中は大忙しになった。
幸崎花音
幸崎花音
……キョウ、さんって普段、メガネなんですね。雰囲気違ってて、全然気づかなかったです
受け取ったジュースを飲んでから、思ったことをそのままに聞いた。
キョウ
キョウ
メガネは、変装なんだ
幸崎花音
幸崎花音
え? あ……、そっか。RAISEの正体は秘密。謎のバンドでしたね!
キョウは静かにうなずいた。
キョウ
キョウ
本名や学校、活動場所を知られたくないんだ。音楽に、集中したいから。だから、この場所はメンバーや俺たちの気持ちを理解してくれる人だけが出入りできる。他の人には知られたくない
キョウはまっすぐ私の目を見て言った。力強い言葉と、真剣な瞳だった。

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