第69話

陸拾捌
28,290
2021/02/13 13:42



キーンッッッ








刀が折られて、びっくりして後ろをむく。



そこに居たのは














夏油傑
夏油傑
自殺願望あったのかい?









誰、だろう…





大瀬良あなた
えっ…と……
夏油傑
夏油傑
大瀬良あなた
どちら様ですか…?
あっ、すみません。
私記憶喪失らしくて…



折れた刀を膝においてそう言う。





誰だろう。

記憶があった時、どういう関係だったのかな。





夏油傑
夏油傑
…それ、ほんと?
大瀬良あなた
あ、はい。
私はよく知らないんだけどね
 


付け足してそう言うと、

その人はニコリと笑った。




夏油傑
夏油傑
夏油傑、君とは何度も会ってるよ。
よろしくね




出された手を握って「よろしくね」と笑う。





夏油傑
夏油傑
死のうとしてたの?




白い着物に、刀。






こんなの、誤魔化しようがないよね。




大瀬良あなた
…私はここに必要ないから。





私の言葉を傑くんは真剣に聞いてくれる。




大瀬良あなた
皆は私を仲間だって言ってくれるけど、
私はあの輪の中には入れない。
大瀬良あなた
それに、
大瀬良あなた
誰も救えなかった。
私のせいで何人も死んだ。
有り得ない事を願って、
何も結局できなかったし、変わらなかった。
こんな私を、必要とする人なんていない
大瀬良あなた
人間の価値が無くなるのは、
必要とされなくなった時です。
価値がない人間が生きていたって、
「必要だよ」なんて言ってくれる人は
……居ない、です。




ギュッと着物を握りしめた。





ポタポタと着物に涙が落ちていた。

不規則に、静かに、それは落ちていく。






何も出来なかったこんな役立たず、

今まで生きていただけでも奇跡なんだ。





夏油傑
夏油傑
そんな事無いと思うよ?





傑くんは、私の頭を撫でた。





夏油傑
夏油傑
君が死ぬと、
少なからず泣く人はいる。
私はその1人だよ




優しいその言葉が、

心の中に落ちていく。




その優しさが心に波紋を打つように広がる。





大瀬良あなた
…私は、貴方とどういう関係だったの?
友達?仲間?




傑くんは、顎に手を置いて考えた。



そして、





夏油傑
夏油傑
仲間だよ。
君がいいなら、堕ちよう。あなた





おちる


落ちる


堕ちる





夏油傑
夏油傑
私の君はずっと仲間だったんだ。
ある時、君は急に忽然と姿を消した。
夏油傑
夏油傑
誘拐されていたんだよ。
あなたは。



誘拐…?



そうなの?





夏油傑
夏油傑
ほら、立って。




手を引っ張られて地面に足をつけて立つ。




そのまま引っ張られて、

呪霊、というものがいる場所まで来た。





傑くんはそれに乗ると、

私に手を伸ばしてくる。




大瀬良あなた
ダメだよ、傑くん。
悟くんが、
これは悪い者だって言ってた。




そう言うと、少し目を見開いた傑くんが

小さく笑う。




夏油傑
夏油傑
私の術式は呪霊操術。
呪霊を式神のようにして操るんだ。
だからコレの呪霊は悪くない





またもや引っ張られて呪霊の上に乗った。



呪霊は動き出して、どこかへ飛んでいく。





大瀬良あなた
ねぇ、どこに行くの?




そう聞いた。





夏油傑
夏油傑
私達の仲間のところだよ





ニッコリと笑ったその顔が、

少し恐ろしく見えた。





大瀬良あなた
悟くん達は……
夏油傑
夏油傑
アイツは、敵なんだよ。
君を騙して、私達からあなたを取ったんだ





……そう、……なの?










___次回もよろしくお願いします!


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