俺が公園に着くと二人は既に居てなにか話しているようだった。まだ気がついていないようだったのでそっと近くの木の後ろに潜む。二人の声が聞こえる。
現実に打ちのめされた勝くんと過去を見続ける文哉の会話。きっとどこまでも平行線で二人はずっとこうしていたのかもしれない。
じゃ、俺がその平行線を経ち切ってやる。
俺は目配せをして勝くんにウィンクする。勝くんはわかったのかフワッと前髪をかきあげる。
俺の言葉にすぐに反発していた文哉の言葉が止まった。そのまま頬に涙が流れる。何て綺麗な涙だろう。
否定的な言葉を投げるのは簡単だ。存在を否定し続ければそのようにインプットされる。文哉はきっと教師に存在を否定され続けた。だから、否定されない世界に文哉は不安感を強めた。不安定な存在と共に発作を起こす。知ってか知らずか勝くんもその場所から去ってしまうことで文哉は自分が悪者と言う立場でクラスメートからの無言の攻撃で存在しようとしたんだろう。
文哉の緊張でこわばった表情が途切れ吹き出す。
勝くんが手をきゅっと握りしめた。怖いんだよね、わかるよ。
文哉がたたっと駆け出してくるっと振り返る。
勝くんがその瞬間両手で顔を覆った。小刻みに肩を震わせる。俺はその肩を抱いて軽く叩いてやる。
文哉の呪縛が解けたんだと思った。これで問題が解決する、俺はそう確信していた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!