康祐くんはあまり出掛けない。オレもそんな出掛けることはなかったからそういうもんだと思ってたけど、初めての学校生活で外の楽しさにも気付き始めた。
その時だった、一瞬フワッとした。全身の力がスッと抜けるような感覚。俺はその場に倒れた。
康祐くんに抱き起こされながら手をグーパーグーパーしてみる。うん、動く。
あぁ、くやしいなぁ。悔しい。そんな俺の表情を読んだのか康祐くんが心配そうに顔を見てる。
俺はゆっくりと立ち上がる。大丈夫、まだ動く。生きてる。
康祐くんが目を真っ赤にしている。ほんと涙もろいんだから。
頷く康祐くんの肩を叩いて部屋を出る。扉にもたれ掛かりそっと自分の首をさわる。頸動脈に触れると自分の鼓動を感じる。
まずは文哉だ。勝くんと文哉とタピらないと。こんなとこで終わる気はない。
自室に戻ってパソコンの画面を覗き込む。変わらない計算結果にうんざりする。そんなとき、ポケットに入れた携帯が振動した。
ー秀太?今暇?
メッセージアプリで初めて勝くんからメッセージが届いた。なんだこれ、嬉しい。あわててアプリを開く。
ーいきなりなんやけど、今から出てこれん?
誘われてんじゃん。可愛い『ok』のスタンプを押して、『どうしたの?』と返す。
ー文哉から呼び出されてんけど、様子が変なんよ
変?…わかんないけどまぁいいか。ジャケットを羽織って出掛ける準備をする。康祐くんの部屋の扉をコンコンと2回叩く。
返事を待たずに出掛けた。勝くんが心配してるんだからよっぽどだろう。待ち合わせの公園へ急ぎ足で向かった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。