第4話

Saturday
202
2020/12/18 23:12
 学校のない休みの日は比較的籠って作業をしてたけど、まぁ、どうせ意味ないし、今日は中川勝就に会いに行くって決めてた。
浦野秀太
たぶんこの辺…あった、中川
 来てみたは良いけど、どうやって会う?クラスメートでもなければ会ったこともない。
浦野秀太
詰めが甘いよなぁ、俺
中川勝就
せやなぁ、他人んちの前で知らんやつがウロウロしとったら不審者やな
 家の前でうろうろしてた俺を見てたのか、2階の窓から顔だしてにっこり笑って手を振っている。
浦野秀太
えっと、君が中川くん?
中川勝就
はじめまして、浦野秀太くん。そろそろ来るやろなって思ってた
浦野秀太
え、なんで?
中川勝就
文哉からしつこいって話は聞いてたから、そのうち俺んとこも来るんじゃないかと思って。誰もおらんから入ってきて
 そうして俺ははじめて会う中川勝就宅にお邪魔することになった。玄関に入ると窓から顔出していた中川くんが出迎えてくれた。
中川勝就
いらっしゃい。なんもないけどゆっくりしてってな
浦野秀太
あ、ありがとう
 わからない、なんで彼が学校に来れなくなってるんだ?そこまで病んでるようには見えないけど…居間に通され、ソファーに座る。
 柔らかっ。いつもワーキングチェアばっかだったからこれはこれで良いな。康祐君にお願いするかな。いや、ちがうちがう、今はそれじゃない。
中川勝就
なににやにやしてんの?
浦野秀太
いやいや、ソファー柔らかいなって思って
中川勝就
はは、普通やろ
浦野秀太
あ、普通か。そーだよねー
中川勝就
ほんと、文哉が言ってた通り変なやつやな。
 中川くんが笑いながらコーヒーの入ったマグカップを出してくれる。
中川勝就
で、何が知りたい?どこまで知っとんの?
浦野秀太
え、えーと
 俺の知ってる情報は康祐くんが調べてくれたものだからどこまでがほんとかどこまでが嘘かわからない。だから、知っている、で良いのか、果たして知らないなのか…
中川勝就
あんな、もう文哉には近づかんで欲しい
浦野秀太
え、なんで?
中川勝就
そっとしといてやってほしいんよ
浦野秀太
いやいや、だって教室でひとりぼっちだよ?
中川勝就
うん、そうやろな
浦野秀太
俺、直感で思ったんだ。こいつと仲良くなりたいって。だから理由もなく諦めるなんて出来ないから
中川勝就
まぁ、そう言われると思ったわ。ネットニュースの内容くらいは知っとんのやろ?
浦野秀太
うん、まぁ
中川勝就
この事件が明るみになったのは、あの日…



   ※   ※   ※   ※

教師
俺をそんな目で見るな❗️
 教師の怒鳴り声からいつも始まる風景だった。その瞬間からいつもだったらクラスメートは石になるし、俺と文哉はただどうにかこの状況を打開する術を考えていた。今思えば逃げればよかったかもしれん。それでも、そのときはそんな頭がなかってん。
 教師が文哉につかみかかったときいつもだったら俺が止めに入るんやけど、その日はクラスメート数人が俺を止めた。
クラスメート
辞めとけカツ、お前はもう十分頑張ったよ
中川勝就
離せよ、文哉を守らんと
クラスメート
良いから、今日は
中川勝就
いいことなんかないやん
 クラスメートと押し問答してる間に教師が文哉の胸ぐらをつかみ教室の隅へ連れていった。文哉は絶対やり返さなかったし、抵抗しようともしなかった。だからこそ行為がエスカレートしてたのもあったのかもしれない。
教師
気にくわないんだよっ、お前のそう言うとこがっ
 罵声を浴びせ蹴りつける。見てられんかった。クラスメートの手を振りほどき、文哉のとこに行けたときにはもうボロボロだった。今まではこんなになることなんてなかったのに。
中川勝就
お前、いい加減にしろやっ。それでも教師かっ
教師
中川、お前はそうやって邪魔しなければ普通に暮らせるのにどうしてそんなクズを庇うんだ?
中川勝就
文哉はクズなんかやないやろ。…退いてください、文哉を保健室連れていきます
 ふらふらの文哉を連れて教室を出ようとしたとき、俺の背中に激痛が走った。教師が竹刀で俺のことを殴ったらしい。その瞬間、文哉がキレた。
 獣のような声をあげながら泣きながら先生につかみかかって殴る蹴るの暴行を浴びせた。頑張って文哉を止めようとしたんだけど、もう止めることが出来なくて…
   ※   ※   ※   ※
中川勝就
で、俺が先生庇って文哉に殴られてん。それで文哉が我に返ってギャンギャン泣いてさ。さすがにその騒動でいろんなことが発覚したんやけど
浦野秀太
そんなことがあったんだね
中川勝就
そして、文哉は今記憶がおかしくなっとんの
浦野秀太
えっ?ちょっと待って、それどういう
中川勝就
文哉の中では文哉が俺に暴行した記憶しか残ってないのよ
浦野秀太
じゃあ、先生にされてたって言うもろもろのことは
中川勝就
事件直後はわかってて、ちゃんと事情聴取とかも話せたんだけど、今は記憶があやふやになってるみたいなんよ。
浦野秀太
それで?
中川勝就
俺が教室行くとフラッシュバックみたいになって文哉何度か倒れてん。それから、学校と何度か話し合って俺が保健室登校することなってん
浦野秀太
でも、文哉会いに行くじゃん
中川勝就
会ったり話したりする分は普通なんやけど、保健室でしか無理なんよ。だから、もう文哉のことはそっとしておいて欲しい
浦野秀太
じゃあ、タピろう
中川勝就
はぁ?
浦野秀太
知らない?タピオカ
中川勝就
いや、知ってるけど、俺の話聞いてた?
浦野秀太
俺、友達とタピオカ飲んでみたいのよ
中川勝就
なにそれ
浦野秀太
タピるって言うんでしょ?
中川勝就
そうやけど、なんでそうなるん?
浦野秀太
学校が無理なら、学校以外でまず仲良くなれば良いと思って
中川勝就
あー、なるほどなぁ
浦野秀太
だから、タピろ!
中川勝就
いけるかぁ?
浦野秀太
いけるいける。ただ俺が誘ってもぜっったいNOだから、中川くんの協力が必要だからね
中川勝就
カツでいいよ
浦野秀太
じゃあ俺も秀太でいいよ
 同時に2人で吹き出した。前から友達だったみたいに笑いあって。そうそう、これこれ、俺がしたかった普通のやつ。
中川勝就
で、秀太、俺からも質問していい?
浦野秀太
ん?
中川勝就
秀太はどうしてココに来たん?飛び級してて高校なんて入る必要ないねんな?日本が生んだ最高の頭脳…やろ?
 俺が思っているより、この世界は楽しいかもしれない。教室の隅でどこか遠くを見つめ続けていたアイツといまここで不敵な笑みで俺を見てるコイツと仲良くなれたら絶対楽しい。

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