部屋にはいなかった。
と、いうことは。
もう場所は大体検討ついたな。
何年お嬢の執事やってると思ってんだ。
俺は息を切らしながらも、
走って、その検討がついている場所へと向かう。
その場所は、敷地内の小さな小屋で、
鍵は、外側は壊れていて機能しない。
内側からしか鍵がかけられない小屋。
こんなボロい小屋を、
爺さんがなんで壊さないかは知らねぇが。
お嬢はここにいつも隠れる。
何かを壊してしまって言い出せなかった時、
爺さんと少し言い争ってしまった時、
必ずお嬢はここに隠れてる。
まぁ毎回上手く言って、連れていっているがな。
しかもそれは俺しか知らない。
だから、お嬢も分かってんだろうな。
俺が来ることも、何か説得されることも。
だがまぁ、当然鍵は掛けられているだろう。
俺は、小屋へ近付いて、ノックした。
すると、泣いていたのか、少し震えたような声で、
そう言うとお嬢は、素直にナイフをこちら側に捨てた。
それをハンカチで掬い取り、ポケットに入れた。
ナイフさえ捨ててもらえば、
後はボロい扉蹴り飛ばして、
無理矢理ってのもアリだけどよ。
落ち着いてないなら、落ち着かせればいい。
このまま無理に連れてったところで、
俺のクビは確定だろう。
それなら、最後に思い出話でも聞いてもらおう。
俺は、ギシッという音が響く、
小屋の扉に寄り掛かる。
この話す内容は、事実であり、
俺の人生を、大きく、大きく、変えた話だ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。