頷いて、沈黙が。
え?十秒経ったよ?
凄い今、珍しく俺が感情的になっていたのに、
なんか、踏み潰されたみたいな。
え?腹立つ、この人。
真面目に頷いて聞いてくれてんなって思ったのに。
笑うの堪えてたの?
てか、今の話笑うとこあった?
そんな、腹抱えてソファーバンバン叩いて、
足バタバタさせて。
お笑いしたんじゃないんだよ?
え??
前言撤回。
流石、この人がここに居続けていられる理由が分かる。
的確で、当たり前のことで、
でも、自分では忘れていて。
多田さんはそこを指摘してくれる。
…そうか、もうむしろ、
お嬢の好きにさせよう。
爺さん殺しそうになったら止めてやる。
だけど、あの子はそういうことしない。
『いただきます』『ごちそうさま』
毎日、毎食、かかさず言う。
少しだけ疑問になって、聞いて帰る言葉は、
『生きているものだから』
真面目か、純粋か。
感謝して食う。当たり前で、難しいこと。
お嬢はそれくらい優しい。
でも人は人だ。
怒らない人なんていないし、
泣かない人なんていない。
俺は、少し微笑んで、ドアを閉めて部屋に戻った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!