「よー 泉 。」
「相変わらず冷たいこった」
こいつは 一ノ瀬 憂 。
思いたくは無いが一応クラスメイトである。
平均よりも高い背、サラサラの黒髪、ちらりと見えるピアス。
男子にしては白い肌。色素の薄い唇。
こいつが女の子だったらきっと好きになっていただろう
何と言っても顔が良い。性格はあんまりだけど。
睨みあっていると一ノ瀬の腕に巻き付く腕。
白い手にはきらびやかなピンクの爪。
「一ノ瀬 ~ 。 こいつなんてほっといてはやく教室移動しよーよ。」
そう、こいつは かなりモテる。
性格も私が好きじゃないってだけで普通に良いやつ…なんだと思う。
相も変わらず一ノ瀬の腕に抱きついてる女子からの視線が痛い。
軽蔑の眼差し。
嗚呼 … も … 、 面倒くさいや。
意識していない内に地面を蹴った。
強く、強く、それでいて弱く
自分でも矛盾していると思った
慣れている筈なのに。
職員室にて、そう言った。
先生は少なかった 授業中だしね。
校長先生居ない
前髪を全部ピンで留めた優しそうな女の先生だけがこっちを向いた
「屋上の鍵ならないわよ!さっき誰かが持ってたわ」
都合が悪いと思った。今日は散々だ。
ここは日陰でじめじめしていて気持ちが悪い。はやく風を浴びたい気分だったのに
だけど 今戻ってもこれまた都合が悪い。
顔を…会わせたくない。
特にあの一ノ瀬の取り巻き女子。
しょうがないから屋上に行くことにした。
授業だしもう誰も居ないでしょ。
階段を上る足取りが妙に重かった。
きぃ …
屋上の扉だけ音が違うんだよね
どうでも良いことを考えながら、一歩を踏み出す。
やっぱりこの晴天が私への嫌味だとしか思えない。
屋上は午後になると古い貯水タンクで日影が出来る。
寝そべり頭の後ろで腕を組んだ。
ゆっくりとまつげを伏せる。
目の前は真っ暗だけど、こうすると夏に溶け込んで自分が透明になっている気さえする。
深く息を吸い込む。
深緑の、初夏の香り。
『ごめんなさい』
ふと 、 声が聞こえた
今にも消えそうで儚くて。
切なくて 、 今すぐ壊れてしまいそうで 、 自分を責めていて
そんな懺悔が聞こえた。
別に人の言動はどうでも良い。
ただ、人の懺悔が聞こえてくるのはどうも気分が良くない。
その声を探した。
屋上の端、フェンスの手前。
そこで彼女はうずくまっていた。
小さく、丸く。首を精一杯折り曲げて。
気づいたら声をかけていた。
自分でもびっくりするぐらい、か細い声が出た。
彼女は私と同じ制服を来ていた。
但し長袖の。
目があった
"りん"
鈴のような音が聞こえた気がする
『きみ … アタシ が見えてるの ?』
暑い。
口の動きがスローモーションのように流れていく 。
『アタシさぁ …』
『ゆ う れ い な ん だ よ ね』
確かに彼女の唇は、告げていた。
口は形は瓜を描いて、目を細めて
咲いた笑顔は 向日葵の様で よく夏が似合っていた
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。