第15話

進め、私。
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2019/11/07 09:15
前橋 藍
香織ちゃんっ……!!
ツインテールのフワッとした栗色の髪の毛は宙を舞う。
戸羽 香織
どうしたの?
前橋 藍
あの、今更なんだけど香織って呼び捨てしてもいいかな?
余程嬉しかったのか、香織の頬は少し紅色に染まる。
戸羽 香織
や、やったぁ……!なら私も藍って呼ぶね?
前橋 藍
うん、そういえばさ、前病院で言いたいことがあったんだ。
戸羽 香織
うん。
前橋 藍
それは……
戸羽 香織
私達の在るべき姿。
私達の在るべき姿……?
戸羽 香織
”親友の役目“でしょう?
少し意地悪そうに微笑むその姿は柳とは違った、でも二人とも温かい視線を私に向けていた。
前橋 藍
……そうだよ。
少しニヤッと笑うと、大きく息を吸った。
前橋 藍
なら後は……
実はこれは話そうか迷っていた。
勿論、真実あの日についてだ。
前橋 藍
香織。怒らないで聞いて。
前橋 藍
怒ったのは私だけかもしれないけど、柳が今どうなってるか知ってるよね?
戸羽 香織
……うん。
前橋 藍
あの日について、きっと香織が知らない事実がまってるけど、それを聞くかどうかは香織次第。
前橋 藍
私は……
前橋 藍
私は、それを香織が聞く権利があると思う。
戸羽 香織
……つまり、柳には、何かしらの事情があって、それが未だ公表されてないってこと?
前橋 藍
……うん、それで、柳のお母さんはそれを知らない。
戸羽 香織
……どういうこと?
前橋 藍
……手紙。
戸羽 香織
手紙?
前橋 藍
あの日、私宛に柳は手紙を書いたの。
戸羽 香織
……うん。
前橋 藍
そこに、全ての真相が……書かれてる。
戸羽 香織
柳のお母さんに、それは伝えるの?
前橋 藍
手紙には伝えるな、とかそういう内容は書かれてなかった。
前橋 藍
だから……
戸羽 香織
柳のお母さんも聞く権利があるってことか。
前橋 藍
そう。
前橋 藍
で、どうする?だいぶショックを受けると思うけど。
戸羽 香織
ちょっとしか話してないけど、それでも私達は親友だよ。
戸羽 香織
勿論、聞くよ。
そう言った香織の目は何かを決意したような強い強い目だった。
……そうだ。
私も、怯えてばかりのままじゃない。
”辛いときも前を向いて“
なんで私はこんな事に気が付けなかったんだろう。
香織がこんなに強い目なのに、私がこんなに怯えていてどうするんだ。
怯えていては何も始まらない。
そう教えてくれたのは柳だ。
どんなに深い穴に落ちても、必死によじ登るのが私だ。
上にいる人に助けを求めずに自力で這い上がっていくんだ。
それが、私じゃないか。
何を諦めているんだ。
最初から何もしないのは負けと認めたものだ。




”進め、藍。“
柳の声が遠くで聞こえた気がした。
柳。今、私は進むよ。
毎日。毎日。それも、少しずつ。
一歩にも満たないその距離を__

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