第10話

心臓病
335
2019/11/03 23:05
前橋 藍
はぁ……
今日の朝の出来事を思い出すと、私の口は溜め息しか出てこない。
でも、アルビノを馬鹿にされるのは、柳を否定するのと同じ。
アイツらの行動は凄く腹立たしい。
前橋 藍
思い出しても怒りが増えるだけだ……
そう自分に言い聞かせるが、やはり腹立たしいものは腹立たしい。
どうしようもない怒りの矛先は結局自分に戻ってくるのだろうな、と思いながら病院へ行く。
ガラッ
前橋 藍
こんにちは……
柳のお母さん
今日もありがとうね……
自分の娘が大変なのに、こうやって私にありがとう、と言えるのは凄い事だなぁ……と感心する。
病院までの道のりで沙弥達への怒りを募らせていた私とは大違いだ……
前橋 藍
あの、柳は……?
柳のお母さん
まだなの……
前橋 藍
そうですか……
たったこれだけの会話で病室の空気が下がった気がする。
ふと時計を見ると午後7時を回っていた。
前橋 藍
では、私帰ります。ありがとうございました。
柳のお母さん
藍ちゃんも元気でね。
前橋 藍
はい。さようなら。
柳のいる202号室のドアを閉め、出口まで歩く。
すると、目の前に誰かいることに気がついた。
戸羽 香織
……あれ?藍ちゃん?
前橋 藍
香織ちゃん?
前橋 藍
なんで、ここにいるの?柳のお見舞いか何か?
戸羽 香織
あ、いや……
前橋 藍
……?教えたくなかったらいいんだけど……
戸羽 香織
藍ちゃんは人と違う病気ってどう思う?
人と違う病気……?
まんま私じゃん。
右目見えてないし。
前橋 藍
特に何も思わない。でも、それを批判するのは違う、かな……
戸羽 香織
なんかね、私心臓に病気があるらしいの。
そう言われてもあ、そうなんだ、くらいの感情しか芽生えなかった。
多分、柳と一緒にいたことで、まぁ、私もだけど、そういう特殊な扱いを受ける人たちに慣れてしまったのだろう。
戸羽 香織
……あれ?驚かないの?
前橋 藍
え、驚く要素ある?
前橋 藍
だって私右目見えてないし。
戸羽 香織
あ、そうなんだ……
凄い気まずいなぁ……




それからお互いに黙っていた。

すると、香織ちゃんが顔をあげた。
戸羽 香織
あの、今更なんだけど友達にならない?
友達……?
前橋 藍
もう友達だと思うけど……?
戸羽 香織
いや、あの……もう少し近い距離にいたいというか……
前橋 藍
あ、そういうことね。うん、いいよ。
多分この子は大丈夫。

なんかわからないけどとりあえず本能がそういってる気がする。


今日の朝も私の味方(?)ぽかったし、同じ病気を抱えてるから、辛さとかもわかってくれる筈。
戸羽 香織
だから、その……藍って呼び捨てしても、いいかな?
戸羽 香織
本当は柳ちゃんとも友達になりたかったんだけど……でも……
“出来ないから。”
声には出さずに言ったその言葉。
違う……違う……!
それは……違うんだ。




柳のお母さんが思っていたことがわかった気がする。
“最後まで信じ抜くのが母親の役目。”
“そして、それは藍ちゃん。柳の親友の貴女の役目でもあるわ。”
前橋 藍
それは……違う。
戸羽 香織
……え?
前橋 藍
それは……
医院長
おーい、もうこんな時間だから帰りなさい。
医院長だ。
私達はその言葉に従うべく、“親友の役目”を話せずに家に帰っていった。

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