第8話

親友の役目
290
2019/10/31 21:58
前橋 藍
はぁ、はぁっ……
ガラッ
柳のお母さん
藍ちゃん……!
前橋 藍
あの、柳は……!柳に何があったんですか?!
柳のお母さんは涙を流して私に事情を話してくれた。
柳が信号を渡ろうとしたらトラックが突っ込んできたこと。
打ち所が悪かったこと。
もう、目を覚まさないかもしれないこと。
前橋 藍
柳…………!!!
ひどいよ。ひどすぎるよ。
柳なら、あの、沙弥達に勝つよね……
目を覚まさないといけないんだよ……
なんで……!
なんで、柳なの……?
前橋 藍
それならいっそ、私で良かった……
ふと口から出た言葉。
柳のお母さん
それは、駄目……。
前橋 藍
なんで、何でですか!?
前橋 藍
だって、柳はもう助からないかも知れないんですよね!?
前橋 藍
なら、私で良かった……!!
柳のお母さん
助からないかも知れないけど、助かる可能性を信じて、柳を助けるのが、母親の役目よ。
前橋 藍
そんな……!
柳……
真面目で優しくて、可愛くて、賢かった柳はもういないの……?
何でよ……!!
何で柳なの……!?
なんで、アイツらのくだらない嫉妬で柳は……!
柳のお母さん
もう、夜だから、今日はありがとう。
前橋 藍
……はい。また明日来ます。
柳のお母さん
あの、もう一度言うけど、助かる可能性があるんだったら最後まで信じ抜くのが母親の役目。
柳のお母さん
そして、それは柳の親友、藍ちゃん……
柳のお母さん
貴女の役目でもあるわ。
前橋 藍
……はい。
喉を振り絞って出た声は掠れていたかもしれない。


でも顔をあげると涙が出そうだった。


それが悲しみなのかそれとも、また別の感情なのかはわからない。
取り合えず、こうべを垂れたままのそのそとした足取りで病院を後にした。

プリ小説オーディオドラマ