第3話

神威〜3歳①〜
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2019/01/31 09:49
江華side

これは、神楽が産まれるちょうど1年前の話_______________。

「おなかすいた。」
「神威···2時間前に朝ごはん食べたばかりでしょ?」

相変わらず、神威はお腹の減りが早い。最近ではハゲよりも食べるようになった、末恐ろしい子。
実質、まだ午前9時。間食できるものをあげるわけにもいかない。10年後には、すごい太ってる子になるかもしれない。

「神威、我慢して。今日はハ···父さんもいるから、お昼は中華屋に行こう。」
「いく!!」
「じゃあ、我慢できる?」
「···できる。」


ガラガラッ···。
「いらっしゃい。お好きな席へどうぞ。」

貴重なハゲの休みの度に、お昼はこの中華屋に必ず来る。なんと、餃子1皿30個入りでたったの230円。店主のおばさんに言われ、いつもの窓側の席に座る。

あれから約3時間、神威は「おなかすいた」をひたすら連呼して、ハゲが何とかなだめてくれた。

「よーし、神威!お腹空いた分、好きなのたくさん頼んでいいぞ!ただし、父さんより食べるな。そして母さんを怒らせないような量を食べろよ。」
「かあさんがおこるりょうってどれくらい?」
「母さんの顔色が変わったくらいからだ。」
「むしろ神威よりお前に腹が立ってたんだが。」
「えっ。」

とはいえ、私もここの料理は好きだ。今までに食べたことのないような美味しさで、初めて食べた時は感動した。
今日はエビチリでも食べようかと考えていた時。

「きょうはー、えびちりとぎょうざとちゃーはんとしゅうまいとしょうろんぽうと···。」

神威の相変わらず驚愕するような注文に、毎回「食べられるの?」と不安になるが、毎回食べ切ってる。しかもデザートの杏仁豆腐もペロリと食べる。

ということで、私はエビチリと白米。ハゲは炒飯と餃子と麻婆豆腐。神威はきりがないので省略。

「ごちそーさまでしたっ!」
神威が杏仁豆腐を食べ終わったところで、会計の準備。いつも会計はハゲと交互で払っている。前回は私だったので今日はハゲ。
今日の値段は、いつもより少し高めの4800円。···少しラッキー。

「江華。先に神威と外に出てるからな。」
「待て。」

さりげなく逃げ出そうとしてるハゲをちゃんと捕まえる。こいつは自分の会計の番になると必ず逃げ出す。

「前回は私が払った。今日はお前だ。」
「い、いやいや、前回は俺だ。」
「目が泳いでる。それに、こうなることを予想して、前回のレシートを取っておいたんだ。」

そう言って、私はレシートを見せつける。この作戦はついこの間浮かんだばかりだ。財布に溜まってたレシートを整理していて、たまたま思いついた。

「くっ、くそぉ···。」
「神晃。先に神威と外に出てるからな。」
「かあさん、いこ?」

私が神威と手を繋ぎ、外に出ようとした瞬間。

「あっ。」

ハゲがいきなり声を発した。

「江華様···。お金が足りないので貸してくださいませんでしょうか···?」

ハゲは目を輝かせて私に頼み込んだ。

「絶対に嫌だ。皿洗いでもしてろ。そして2度と帰ってくるな。」

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