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第13話

今日は帰らない/えとな
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2022/10/09 08:10
高校の友人に会って久しぶりに盛り上がった。友人、と言えばいいのだろうか。

一度も友人と思ったことはない。けらけらと笑う低い声。私は彼を一度も友人として見ていない。



一人の異性として見ている。帰りたくないな。仕事が辛かった。一人が辛かった。みんな頑張ってるからと言い聞かせ自分の身体に鞭を打っている。



彼に会ったせいでだんだんと限界になってきてしまった。

改札口の前に立った時、私は現実に引き戻されてその場にしゃがみこんでしまった。

えとな
えとな
ちょ、大丈夫?酔った?

力なく首を横に振る。

この改札口を通り抜けたらもう彼に会えない気がする。

そんなわけない。

彼はこうして私に会ってくれた。

時間が無いのは私の方だ。
あなた

かえりたく、ない

声を絞り出したと同時に涙が溢れた。

えとな、と涙声で名前を呼ぶと、無理矢理立ち上がるように支えられる。
えとな
えとな
帰んなくても良くない?
今夜はオールかー、と私の前を行くえとなの手を握り返した。

彼は高校の時こんなに優しかっただろうか。好きだと思った。この気持ちを隠し続けている意味はあるのだろうか。
えとな
えとな
泣き顔ブサイク
あなた

うるさい

立ち止まって私の涙を拭ってくれた。その優しさに涙が溢れてくる。それを見て彼が笑って、「情けないなあ」と零した。
えとな
えとな
俺の知ってる顔はもっと可愛いんだけど
ずず、と私が鼻をすする。

今なんてと聞き返すと彼は私から顔を背けて「何でもない」とぶっきらぼうに言葉を投げた。ちゃんと聞こえていた。

だからこんなに今顔が熱いのだ。泣いてるせいもあるけど、もっと熱くなった
あなた

ねえ、えとな

えとな
えとな
なに



夜の空気を肺に取り込む。噎せるくらいに。



あなた

好きだよ

眠たげな目がこちらを見て、口角が上がった。
えとな
えとな
知ってる
ぶわあと全身に熱が巡って、指先まで熱く、溶けてしまうんじゃないかなんて馬鹿みたいなことを考えている。

彼の頬が微かに朱に染まっているのが見える
えとな
えとな
俺はもっと前から好きだったよ
また歩き出した。今日はもう帰さないからって、彼は言った。遠くで電車の、最後の発射音が聞こえた。

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