寒い、と口にすれば彼が隣にいてくれた気がした。優しい彼に甘え過ぎていたのだけれど、もうその優しさを少しでも私に向けてくれるだけでも十分だった。唯一の女友達だと思っていたけれどそれは間違いで、メンしのは私よりも広い友好関係を持っていた。それは男にも女にも関わらず。
1匹狼に見えた彼は全然違って、誰かに囲まれるような人間だったのだ。
はい、と私に投げたココアを受け取ると、メンしのは私の隣に座った。ベンチは今にも凍ってしまいそうなくらい冷たい、なのに一人寂しく座っている私の隣に座ってくれる彼は、やはり優しいのだ
彼女と上手くいってるの?と純粋な疑問を投げかけて、私の心がちりちりと花火を散して焦げた。驚いた顔をしてこちらを見る彼の鼻は赤い。
メンしのと付き合えるその人が、告白されたと言っていた。その人は勇気を出したんだね。私が勇気を出そうとしていた時はもう遅かった。メンしのはだれかのもの、私は一人、しんしんと、雪が降る、ふと涙が込み上げてきて頬の内側を噛んだ、勇気も出せないくせに涙を流すな、ココアの温もりが妙に傷口に滲みた、いっそここで告白して玉砕でもしてしまおうか、でもできない、友達から先へ行けない。
ベンチから立ち上がった彼の背に手を伸ばしかけて引っ込めた。
そうやって私はメンしのに未練ばかり募っていく、離さない気なんでしょ、都合の良い妄想ばかりが頭の中に膨らんでいく
私に積もる雪は静かに溶けていった、ココアはまだ、暖かいまま。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。