第9話

脇役扱い/ゆゆし
181
2022/10/08 10:35
実家に帰った時に聞いてしまったのは、幼馴染の婚約の話。思わずひゅ、と喉が鳴り
高校時代まで過ごした自室で一人寂しく、
声を押し殺して泣いていた。普通こうゆうのって、幼馴染である私を好きになって、結婚なんてパターンが多いでしょうなんて、過信しすぎていた。幼馴染であるという立場に甘えすぎて、手を伸ばすにはもう遅かったのだ。
ゆゆし
ゆゆし
具合悪いんだって?
今一番聞きたくない声がドアの向こうから聞こえてくる。彼も帰省していたのだ。震えた声を隠しもせずに、私は彼に言葉を返す。
あなた

ゆゆしの、せい

一言吐き出してしまえば、ダムが決壊したかのようにどんどん流れていく。ずっとずっと私が好きだったのに。彼をよく知っているのは私の方なのに。
ゆゆし
ゆゆし
知ってたよ
残酷な答えを彼は淡々と口にして、ごめんねなんて優しい声音で言うのだから。まるで手を伸ばすのが遅れてしまった私が悪いみたいに思えてしまう。ゆゆしが悪いもん。子供みたいに心のうちで駄々を捏ねる。振り向いてくれないゆゆしが悪いんだもん。溢れる涙は未だ止まらず。
ゆゆし
ゆゆし
だから俺よりもっと、幸せになって
私はゆゆしと幸せになりたかったの、ゆゆしが隣にいてほしかったの。この叫びは伝わらない、伝えることができない。だって彼にはもう、一緒になる人がいる。ハッピーエンドを迎えた。誰もが人生の主役だと思っていた。でも彼の人生の中では私はただの、ヒロインでもなく、脇役に成り下がってしまった。
あなた

ゆゆし、ゆゆし、好きだった

ゆゆし
ゆゆし
うん、うん、ありがとう。こんな俺を好きになってくれて
それは私に言えてもきっと、ゆゆしと結婚する人には絶対に言えない言葉だ。お互いの欠点を丸ごと好きになったのだから。でもそしたら、そしたら。噛み締めた唇に血が滲んで、鉄の味が口の中に広がる。
あなた

私だって、どんなゆゆしでもずっとずっと愛してあげられた

呟いた台詞はもう、誰も聞いていない。部屋のドアの前にはもう誰もいなかった。

プリ小説オーディオドラマ