三日間の船旅と半日の馬車の旅でようやくミステイル王国の王都へ到着する。
がっちりとした厚い囲壁と、門を行きかう商人の数に驚いた。商業の都と呼ばれるのにふさわしい城下町だと感心する。
門から見える城は赤茶色を基調としたもので、自国の白が基調の外壁とまた違う雰囲気をまとっていた。
初めて見る他国の景観に思わず足を止めて見入ってしまう。
クラルスに声をかけられ僕は騎士たちに囲まれながら城門まで歩いていく。
街の人々は道を自然と空け、物珍しそうに僕たちを見ていた。
街並みを見ていると自国との違う建物や街の作りが目に入り、新しい発見に心が弾む。
しかし、自分がよそ見をしていることに気がついて前を見据えた。大切な公務なのに浮かれている場合ではない。
うしろからロゼのくすりという笑い声が聞こえ、隣のクルグを見やるとほほ笑んでいた。
一連の行動を見られていたようだ。幼い子どものような行為が恥ずかしくなり、顔が熱くなる。
僕の受け答えに彼は満足そうにうなづいた。
城門の前へ到着すると、クルグは門番へ取り次ぎをはじめる。しばらくすると、僕たちは城の控室へと案内された。
失礼がないようにミステイル国王と話せるか不安だ。クラルスからは”いつもどおりで問題ない”と言われたが緊張してしまう。
深呼吸を繰り返していると、一人の兵士が姿をあらわした。
兵士に謁見室前へと案内される。心臓の鼓動が皆に聞えるのではないのかと思くらいうるさく感じた。
気づかれないように小さく息を吐き、僕は前を見据える。
絢爛な扉が開くと、玉座に国王が鎮座していた。威厳のある存在感に気圧されそうになるが、目をそらすことなく国王を正視する。
兵士たちが左右にいる赤い絨毯の上を歩き、上段の手前で足を止めた。
国王に一礼をし、クラルスたち星永騎士は頭を下げたままひざまづく。それを背中で感じたあと、僕は右手を胸に当てて言葉を紡いだ。
僕のあいさつを聞くと国王は直線のように引いてあった口をやわらかく緩めた。
玉座の隣にたたずんでいる濡れ羽色の短髪に赤紅色の目の青年。第二王子のガルツ・ラディー。僕より十以上年上だった覚えがある。
不意に彼と目が合ったと同時に背中に冷たいものが走った。ガルツ王子の瞳には底知れないものを感じる。
不審に思われないように彼から視線を外し、国王を再び見据えた。
僕の言葉でクルグが立ち上がり、側近の者へ親書を手渡す。
これから僕は一日ミステイル王国に宿泊することになる。ただの使者ならそのまま返されるのだが、僕は要人として受け入れられているので、そういうわけにはいかない。
これも立派な公務であり、王族の務めだ。
ガルツ王子をちらりと見やると、口元が笑っておらず不気味だった。
彼との再会で、幼いころ初めて会ったときのことがよみがえる。ガルツ王子がまとっている雰囲気。幼いながら苦手意識が芽生えていたことを思い出す。
同盟国の王子にこんな思いを抱くのは失礼だ。ガルツ王子への感情は心の奥にしまい込もう。
謁見は滞りなく終了し、胸をなでおろす。再び控室へ案内され、しばらくするとガルツ王子が姿をあらわした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!