母上は申し訳なさそうな表情をして、僕に宿った経緯を話してくれた。
王族は五歳になると、”宝石の加護”という太陽石と月石の前で無病息災を祈る儀式があるらしい。
その最中、僕に宿ってしまったそうだ。
さいわいその場にいたのは僕たち家族と宝石師の五名。宝石師には他言無用と念を押したそうだ。
歴史書には太陽石と月石は歴代女王が宿してきたと記載されていた。
あるいは、歴代の王子で宿した者もいたが、歴史から消されてしまった可能性もある。
王族男子を軽視しているルナーエ国ではなきにしもあらずだ。
母上と父上が月石のことで沈黙をつらぬいていた理由はわかっていた。もし知れ渡ってしまえば、貴族から批難の声が上がる。
宿主である僕を幽閉しろ、殺せ。女王が宿すことこそ正の歴史。彼らの声が容易に想像できる。
そして母上は、僕を守るために自身へ月石が宿ったと国民へ流布をした。
母上に引き寄せられ優しく抱きしめられる。小さく紡がれた言葉は震えていた。
僕が貴族から軽んじられていることを母上は知っている。しかし、母上の前で僕の悪言をいうわけではない。
貴族に対して何もできないことを、もどかしく思っているのは解していた。
セラは生まれたときから女王という道が用意されている。好きなことをさせてあげられなくて心苦しいのだろう。
母上と父上が僕とセラを大切にしてくれていることは、そばにいるのでよく理解していた。
精一杯の笑顔を向けると、母上はほほ笑んでくれた。家族の前では笑っていてほしい。女王ではなく一人の母としていてほしいと願う。
母上は最後に「ごめんなさい」と小さくつぶやくと、部屋をあとにした。
扉が閉まり、静寂が訪れる。重い足取りで寝台まで歩き、ゆっくりと腰を下ろした。
左手に視線を落とすと、月石の刻印が目に入る。
これからどうすればいいのだろうか。月石について僕は全く無知だった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。