第14話

書庫-I
22
2021/07/04 11:36
クラルス
クラルス
……リア様
 クラルスの呼びかけに気がついて顔をあげる。彼は心配そうな表情を向けていた。
クラルス
クラルス
まだ遠征のお疲れが残っていらっしゃるかもしれませんね
 月石のことが気になり、今日の手合わせは全く集中できなかった。あまりにも失敗が続いたのでクラルスは不安に思ったのだろう。
ウィンクリア
ウィンクリア
ごめんね、クラルス。今日はあまり上手くできなくて……
クラルス
クラルス
そういう日もございますよ。少し早いですが、今日は終わりにしましょうか
 彼は優しくほほ笑んでくれた。気遣ってくれたクラルスのために大人しく自室で休むべきなのだが、月石を理解したいという思いが強い。
ウィンクリア
ウィンクリア
……クラルス。このあと書庫に行ってもいいかな?
クラルス
クラルス
えぇ、かまいませんが……。何かお調べものですか?
ウィンクリア
ウィンクリア
うん。ちょっとね……
 城の書庫には宝石関連の書物が置いてある。何か月石に関するものがあるかもしれない。
 僕たちはすぐに着替えをして書庫へ向かった。

 城の外れにある書庫は、昼間でも薄暗い。重圧な扉をクラルスが空けると、古書独特な埃とカビの臭いが僕たちを出迎えた。
 あまり書庫へ人は出入りをしないのだが、今日は先客がいた。
ウェル
おお。リアとクラルスか。ここへ来るとは珍しいな
ウィンクリア
ウィンクリア
父上。何かお探しですか?
 あざやかな紅色の短髪の父上は、セラと同じ金色の目を細める。
ウェル
地方の書物を探しにな。リアたちはどうした?
ウィンクリア
ウィンクリア
……宝石のことを調べようかと思いまして
 ”宝石”と聞いて父上の表情が変わった。昨晩、母上から僕へ月石のことを伝えたのは知っているのだろう。
ウェル
そうか。リアは勉強熱心だな。宝石類の本棚は一番奥だ
ウィンクリア
ウィンクリア
ありがとうございます
 父上に会釈をして横を通り過ぎたとき、「いつもどおりにしていなさい」と小声で告げられた。
 そんなことを言われても、原石プリムスが宿っていると思うと落ち着いてはいられない。
 僕は今まで宝石とあまり接点がなく、知識が乏しいので少しでも理解したいと思う。
 父上も僕の気持ちをわかってくれているのか、無理やり書庫から引き離そうとしなかった。
ウェル
リア、クラルス。俺は先に出るからな
ウィンクリア
ウィンクリア
はい。わかりました
 父上はお目当ての書物を見つけたようで、数冊ほど小脇に抱えて書庫をあとにする。
 書庫には僕とクラルスだけになり、他に誰かが近寄ってくる気配もない。
 一番奥の本棚の前へ足を運ぶと、宝石関連の書物が隙間なく並んでいる。すべて目を通すには時間がかかりそうだ。
クラルス
クラルス
リア様。何かお手伝いできることはございますか?
ウィンクリア
ウィンクリア
大丈夫。クラルスは自由にしていて
クラルス
クラルス
かしこまりました。ご用命でしたら、すぐお呼びください
 クラルスは他の本棚へ移動して、書物を手に取り読み始めた。
 月石のことは他言無用と母上から言われているのでクラルスに話すことはできない。彼に隠し事をしている罪悪感が心の隅に居座っていた。

 本棚へ向き直り、上段の書物を手に取る。読み進めるが、各宝石の歴史書だった。
 他の書物も手に取ってみたが、専門用語たっぷりの論文、魔法原理についての書物。僕の求めている情報は、なかなか見つけられない。
 月石のことが書かれている書物を見つけたが、公に知られていることしか載っていなかった。

 やはり原石プリムスに関しての情報はそう簡単に見つからない。
 次々に書物を見ていくが、これといって有益な情報を得ることができなかった。
 今日は諦めようと天井を仰いだとき、本棚の上に一冊の古い冊子があることに気がつく。
 手に取ってみると、表紙には埃がかぶっていた。しばらく誰にも触れられた様子はない。
 ていねいに埃を払い、表題を確認したが何も書かれていなかった。表紙をめくって始めのページに「太陽石と月石について」と走り書きで記載されている。
 飛び込んできた文字に、心臓の鼓動が早くなるのがわかった。今まで見てきた書物と明らかに雰囲気が異なる。
 心が期待と不安のふたつに満たされ、指も小刻みに震えていた。
 意を決してページをめくると、そこには数行の短い文章が並んでいる。

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