第3話

黎明ーⅢ
25
2021/06/29 14:21
アエスタス
リア、クラルス。そんなにかしこまらなくていいのですよ
ウィンクリア
ウィンクリア
いえ……。僕はもう十四ですし、公私の分別をしなければなりません
アエスタス
……よい心がけですね
 そう発した母上の声は寂しさをまとっているように感じた。
 自分の母だが、謁見室と書斎では神聖な雰囲気があるので、自然と素行と言動に注意を払ってしまう。
 母上は部屋の中央にある机の前まで静かに歩き、僕たちを見据えた。
アエスタス
リア。あなたに一週間後、ミステイルの国王に親書を届ける役目をしてもらいたいのです
ウィンクリア
ウィンクリア
かしこまりました
 ミステイル王国はルナーエ国の東に位置する同盟国。十年前に同盟を結び、交友関係を築いている。
 数年前、ルナーエ国で開催された交友会で、一度だけミステイルの国王と二人の王子会ったことを覚えていた。
 それ以来、僕個人がミステイル王国との交流はない。
 そんな僕に親書を届ける役目を拝命するのは、僕が行くことに意味があるのだろう。
アエスタス
七年前、ミステイル王国との交友会を覚えていますか?
ウィンクリア
ウィンクリア
幼かったので記憶が曖昧ですが、交友会があったことは記憶にあります
アエスタス
近々、ルナーエ国で再びミステイル王国と交友会を開催する予定です。親書はその案内状ですね。あなたに頼むのも、ミステイルの国王に成長した姿をお見せするためです
 母上の言葉に僕が抱いていた疑問が解消された。
 初めての国外で不安がないと言えば嘘になる。しかし、隣国を肌で感じる機会を与えてもらえたのだと、前向きに考えた。
アエスタス
リア。間違えや失敗をしてもいいので、経験をたくさん積みなさい
ウィンクリア
ウィンクリア
はい。機会を与えてくださり光栄です
アエスタス
クラルス。我が王子の護衛をお願いします
クラルス
クラルス
かしこまりました
 その後、母上はクラルスへ下がるように命じる。彼だけ退室させることはそうそうない。
 疑問符を頭にうかべている間に、クラルスは一礼をして書斎をあとにした。

 書斎は二人だけになり、しんと静まりかえる。母上は静かに僕のそばへ歩いてきた。
 酷く申しわけなさそうな表情をしているので首を傾げる。

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