そう発した母上の声は寂しさをまとっているように感じた。
自分の母だが、謁見室と書斎では神聖な雰囲気があるので、自然と素行と言動に注意を払ってしまう。
母上は部屋の中央にある机の前まで静かに歩き、僕たちを見据えた。
ミステイル王国はルナーエ国の東に位置する同盟国。十年前に同盟を結び、交友関係を築いている。
数年前、ルナーエ国で開催された交友会で、一度だけミステイルの国王と二人の王子会ったことを覚えていた。
それ以来、僕個人がミステイル王国との交流はない。
そんな僕に親書を届ける役目を拝命するのは、僕が行くことに意味があるのだろう。
母上の言葉に僕が抱いていた疑問が解消された。
初めての国外で不安がないと言えば嘘になる。しかし、隣国を肌で感じる機会を与えてもらえたのだと、前向きに考えた。
その後、母上はクラルスへ下がるように命じる。彼だけ退室させることはそうそうない。
疑問符を頭にうかべている間に、クラルスは一礼をして書斎をあとにした。
書斎は二人だけになり、しんと静まりかえる。母上は静かに僕のそばへ歩いてきた。
酷く申しわけなさそうな表情をしているので首を傾げる。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!