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第1話

第一章 一話 最悪な日常
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2022/09/19 03:31
部下
せーんぱい!今、暇ですよね?
近くの壁からひょっこりと顔を出した女が、俺を見てぱぁっと顔を輝かせた。
いい獲物を見つけた、と言わんばかりの表情。
とてもとても殴りたくなるが、ぐっと堪えて拳を握りしめる。
部下
実は、資料終わってなくてぇ。この後急用があるので代わってもらえません?
またか。
結月 翔一ゆづき しょういち
…俺に頼んだら何でもしてくれると思うなよ
部下
思ってないですよ〜!釣れないなぁ
そう言いながらばさっと押し付けられたのは山積みの書類。
にんまりしながら「じゃ!」と去っていく部下の背中を見送りながら肺に詰まっていた息を吐き出す。
結月 翔一ゆづき しょういち
全く、どいつもこいつも…定時なのに
自分の席に座り、書類を読み返しながら訂正を始める。
げっ、提出期限明後日じゃねえか。
これはまずい。
眼鏡をかけ、真剣に仕事に取りかかった。
2時間後。
椅子の上で背伸びをする。
あーあ。アイツは今頃友達と遊んでんのかな。
そんなこと考えたって仕方ないけれど。
一日中デスクワークだったせいで全身がバキバキだ。
あとは…この資料をあそこに置いておけばいいのか。
書類を丁寧に揃え、部下のデスクにばんっと置いた。
いつもいつも俺に押し付けやがって。
鞄を肩に掛け、扉を押し開けて振り返る。
結月 翔一ゆづき しょういち
すみません、定時なのでお先に失礼します。
上司
はーい、お疲れ様〜。今日もありがとねえ
間延びした声でそう言いつつ上司が振り向く。
この上司、常に眠そうだし気力もないように見えるのに、仕事はできる。おまけに顔もそこそこ良い。
男女関係なく好かれるタイプだ。
はぁ。俺にも少しばかりそういうモテ要素をくれないかね。
なんて悪態をつきつつ、眉を顰めてその場を後にした。

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