第63話

3ー35
1,585
2020/05/17 07:43
太宰side

「う……
 何だ…あれは……」

中也に蹴り飛ばされたもう1人の
ギルドの男が戻って来たようだ

私とあなたちゃんは気配を消して
彼の背後に回る

「知りたいかい?ギルドの働き蟻君」

私は彼の肩に触れ
異能が発動しないようにしながら
中也のナイフを首筋に当てた

あなたちゃんも拳銃を彼に向け
万一に備える

「あれが中也の持つ異能力の本当の姿だよ」

躰に異能痕を走らせ
〈汚濁〉に意識を囚われた中也が
触手の化け物に攻撃を仕掛ける

「中也の〈汚濁〉形態は周囲の重力子を操る
 圧縮した重力子弾は凡百質量を呑み込む
 ブラックホールだ
 但し本人は力を制御出来ず
 力を使い果たして
 死ぬまで暴れ続けるけどね」

私が話している間
中也は空中を飛びながら
赤黒い重力子弾を投げ
化け物の体を削り続ける

『………』

中也を見つめるあなたちゃんは
憂色を浮かべながら聞いていた

「しかし……
 あれは一体何だい?
 中也が幾ら削っても即座に再生している
 相棒の君ならあれの正体を
 知っているんじゃないかな?」
「さてね……
 知ってたとしても教える訳がないだろ」
『っ…太宰さんっ!中也さんが!!』

あなたちゃんが泣きそうな顔で私の名を呼んだ

情報を聞き出している間に
中也の躰のあちこちから血が流れ始めていた

〈汚濁〉形態で
中也の躰が大きくダメージを
受けている証拠だ

「っ拙いな…
 中也の躰が保たない」
「生憎だね
 ああなったラヴクラフトを
 外部から破壊する手段なんて存在しない」
「“外部から”?
 つまり内部からの攻撃は効く訳だ」

核心を突かれた
彼の悔しげな顔から
其れが真実であると悟った

これは好都合だ

触手で取られたギプスは
まだ奴の体内にある

……あの中には爆弾を仕込んでいたのだよねぇ

起爆のスイッチを懐から出し
カチリと押した

その瞬間凄まじい光と共に
化け物の悲鳴が響き渡る

爆発によって削られた体は
相当なものだ
再生までの時間稼ぎになる

その一瞬を突いて
中也に重力子弾を撃ち込ませた

「やっちまえ、中也」

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