第68話

3ー40
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2020/07/02 08:39
中也side

消毒薬の匂い……

ページをめくる音……

ゆっくり目を開けると
薄暗い天井が見えた

音がする方に顔を向けると
あなたが紙束に書かれてる
文字を見つめていた

あなたの真剣な顔を
こんな近くで見たことが
あっただろうか……

ぼんやりと思いながら見つめていると
視線に気づいたのか顔を上げて俺を見た

『ぁ……』

何と声をかけたらいいか
分かんなくて名前を呼んだ

「あなた…」
『…中也さん……良かった…』

安心したようにあなたはふんわりと笑った

俺はあなたの安堵する声で
あの時の泣きそうな顔が頭を過ぎった

あなたが無理しないよう
仕事中はずっと一緒に行動してたが
逆に不安にさせちまったな…

横になっていた体をゆっくり起こして
あなたと目線を合わせ口を開いた

「あなた…ごめんな…」
『ぇ…?』

太宰が抜けてから使わなかった
〈汚濁〉を初めて見たんだ
不安だったし怖かったろうな…

目を見開き小さな声を出すあなたに
俺は続けて伝えた

「〈汚濁〉……
 初めて見たもんな
 怖かったよな……
 不安にさせて…ごめんな…」

俺が謝るとあなたは俯いた

表情が見えねぇ

『……う…』
「ん?」

ポツリと呟くあなたに聞き直すと
ゆっくりと顔を上げた

あなたの目元は少し赤くなっていた

また泣かせちまったかと思っていると
あなたは否定の言葉を口にした

『違う……違います…
 異能力は怖くないです

 怖かったのは……

 中也さんが傷つくことで…

 中也さんが
 居なくなっちゃうんじゃないかって
 それが不安で…怖くて…
 だから……』

どこまでも優しい此奴に
俺はなんとも云えない気持ちになり口を噤んだ

大抵……
俺の〈汚濁〉を見たやつは
“異端”だと恐れられ
太宰や姐さん達を除けば
距離をとる奴が多かった


だから…あなたにも……

怖がらせちまったかと

嫌われちまったかと

そう思っていたが
それは杞憂だったみたいだ


今にも泣き出しそうなあなたに
ゆっくり手を伸ばす

「……心配かけちまって…ごめんな
 なるべくないようにするから……
 だから………」


いつもみたいに笑ってくれ


笑ったお前が好きだから……

まだ俺の気持ちなんて知らなくて良い…

まだ伝わらなくていいから…


俺はいつものように
頭に手を置いて優しく撫でた

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