第61話

3ー33
1,621
2020/04/28 04:31
中也side

「これは……人外の類だね…」

苦しげな太宰の声に
背後を振り向いた

木の幹にもたれかかりながら
太宰は座り込み右腕を押さえていた

ギプスをつけていたはずの
右腕は……消えていた…

「手前……
 腕が……っ」
「中也……
 死ぬ前に聞いて欲しい事が……」

此奴のらしくねぇ言葉に
動揺して大声を出した

「な……っ
 何云ってやがる!
 手前がこんな処で……」

「ばあっ!」

ふざけた声と共に
いつもの包帯が巻かれた腕が
右袖から出てきた

…無くなったはずの腕が生えた?

……いや…違ぇ…
肘を折り曲げて
最初から腕を
袖の下に隠していやがったなっ!

カラクリが分かり
あまりのおふざけで腹が立ち
奴の胸倉を掴み拳を作る

『ぇっ…ぁ中也さん⁉
 だっ駄目です、暴力は良くないです』
「止めんな、あなた
 やっぱ此奴は一発殴る!」
「えーっ痛いのは嫌だよー」

此奴……っ!
俺の心配を返せ!

「大体、怪我の身で戦場に出るなら
 これくらいの仕込みは当然だよ」
「手品してる暇があったら
 あの悪夢をどうにかする作戦考えろ!」

今にも動き出しそうな化け物に指を差す

だが、太宰はまるで降参とでも云う様に
両手を上げながら明るく答える

「いやぁ
 無理無理
 諦めて死のう!
 もう残った手は“一つしか無い”ね!」

太宰の言葉で
俺達の最後の切札が頭を過る

「っ真逆……
 〈汚濁(おぢょく)〉をやる気か?」

太宰の胸倉を離し顔を見た
奴の目は本気だった

「私達ニ人が“双黒”なんて呼ばれ出したのは
 〈汚濁〉を使い一晩で敵対組織を
 建物ごと壊滅させた日からだ
 ただし…
 私のサポートが遅れれば中也が死ぬ
 選択は任せるよ」

太宰は俺に委ねたが
此奴の云わんとしていることは
直ぐに分かった

「選択は任せるだと?
 手前がそれを云う時はなぁ……
 何時だって他に選択肢なんか無えんだよ」


……俺は手前の“元”相棒だからな

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