第73話

4ー3
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2020/09/12 07:42
中也side

……そして現在に戻る…

「はぁー…何で俺が…」

首領に頼まれたとはいえ
これから先の事を思い
溜息を吐くと
前を歩く樋口が振り向いた

「其れは首領から
 先輩はお風呂が嫌いだから
 ちゃんと湯船に入ったか確認するようにって
 云われたからじゃないですか」

芥川に関わることだからなのか
樋口の目はやる気に満ちていた

俺は樋口の隣で歩く芥川に
指を差しながら愚痴を零す

「此奴が風呂に入ったか俺が一々確認すんのか?
 どうしても確認しなきゃいけないんだったら…
 樋口、手前がやればいいじゃねぇか」
「えっ!お目付け役を私が?
 …と云う事は先輩が
 ちゃんと湯船に入ったか確認する為に
 先輩と一緒にお風呂…
 む、むむ無理です!無理です!!」
「だぁーっ五月蝿ぇ!!
 そんなに真剣に悩む問題じゃねぇだろ」
「で、でもぉ…」

変な方向に悩み始めた樋口を他所に
芥川が口を開いた

「僕(やつがれ)に療養など不要…!
 ましてや温泉など不要…!
 今からでも任務を…
 僕が求めるのは
 太宰さんに認められる為の強敵のみ!」

芥川は急に立ち止まって熱弁し始める
……此奴このまま帰る気だな

『あはは……
 まぁまぁ、折角此処まで来たのですし…
 温泉行きましょうよ』

苦笑いしながらあなたが
芥川の背中を押して歩き進めてくれた

…本当、あなたが居てくれて助かったわ

「たくっ、芥川も観念しろ
 お前が立ち向かうべき敵は温泉だ!
 兎に角歩くぞぉ
 …はぁそれにしてもどんな温泉なんだろうなぁ?」
「それなら!
 この梶井が到着したら直ぐ温泉の効能について
 調べ尽くしてやりましょう!
 うはははは!!
 温泉は奥が深い…実に興味深い!!」

俺とあなたの後ろで
高笑いをしている梶井に
あなたが振り向いた

『ぉー…
 効能を調べる為の検査キットがあるのですか?』

また梶井が何か企んでそうだが
その話にあなたは目を輝かせていた


あなたが云うには
梶井とは“爆薬”の話で意気投合して
仲良くなったらしいが…

その類いは俺は得意じゃねぇから
よく分からねぇからなぁ

梶井の“実験”とやらに
変に巻き込まれなきゃ良いんだが…


「はぁー…
 もう着く前から早々嫌な予感しかしねぇ…」

もう何度目か分からぬ溜息を吐きながら
温泉宿に向かう俺の足取りは重かった

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