そう言って立ち上がった大ちゃんは、私が立ち上がるのを待ってから再び校舎へ向かって歩き始めた。
そのまま校舎へと入った私達は、古びた廊下を横並びで歩いて行く。こうして大ちゃんと並んで歩く事も最後になるのかと思うと、私は軋む廊下をゆっくりと一歩ずつ確かめる様に歩いた。
暫く黙って歩いていると、少し板の捲れ上がった廊下が目に入る。
それを見つけた私は嬉しくなって小走りで駆け寄る。
こちらへ向かってゆっくりと歩く大ちゃんに向かって手招きをすると、私は足元の板を指差した。
そう言って笑ってみせれば、大ちゃんは困ったように笑った。
妙な言い回しをした事にハッと気付き、私は慌てて顔を俯かせた。
(気付かれちゃったかな……?)
今の言い方では、まるで遠回しに好きだと言っている様にも聞こえる。私はチラリと目線を上げると大ちゃんの様子を伺った。
すると、悲しそうな顔をする大ちゃんと目が合い、私の胸は急に騒つき始める。
震える声で名前を呼ぶと、大ちゃんはすぐに優しい笑顔になると口を開いた。
その言葉に、ついさっき感じた不安は一瞬で吹き飛び、私の顔は一気に熱が集中した。
(それは、どういう意味?)
目の前で優しく微笑む大ちゃんを見ても、その表情からは何も読み取れない。
何気なく言った言葉なのだろうか?
それでも、大ちゃんの言葉でこんなにも動揺してしまう。
高校生になった大ちゃんは、その容姿だけではなく中身まで大人になったのか、その余裕ある態度に私だけが翻弄されているのかと思うと凄く恥ずかしい。
エヘヘッと笑って誤魔化した私は、赤くなった顔を隠すようにクルリと背を向けると廊下を歩き出した。
すぐ後ろで聞こえる足音に、ちゃんと大ちゃんも付いてきていると確認した私は、火照った顔を冷ます様にこっそりと小さく手で扇いだ。
ーーー!
突然聴こえて来たピアノの音に、私は後ろを振り返ると口を開いた。
私は笑顔で頷くと、大ちゃんに付いて音楽室へと向かった。
小さい頃からピアノの得意だった瞳ちゃんは、よく私のリクエストに応えてピアノを弾いてくれていた。
一度も島を出た事のなかった私には、片道一時間半もかけてピアノを習いに行く瞳ちゃんは憧れでもあった。何度もせがむ私に、嫌な顔一つ見せずにピアノを弾いてくれていた瞳ちゃん。
そんな瞳ちゃんも、高校生になるとこの島を離れてしまった。
久しく聴く事のできなかったピアノの音に、私は心を躍らせた。
音楽室の前へ着くと、開けられたままの扉から中を覗いてみる。
ーーその光景に、私は思わず目を奪われてしまった。
決して立派なピアノではないのに、瞳ちゃんが弾くとこうも華やいで見えるものなのか。暫く立ち尽くして眺めていると、こちらに気付いた瞳ちゃんがピタリと手を止めた。
申し訳なさそうに笑顔を向ける瞳ちゃん。
私達がそう言うと、瞳ちゃんはフワリと微笑んで口を開いた。
その言葉にパァっと笑顔になった私は、勢いよく口を開いた。
被った声に隣を見れば、大ちゃんがクスリと微笑む。
昔から私が必ずリクエストしていた曲。
この曲を聴くのはどれぐらいぶりだろう……。
瞳ちゃんはそう言って優しく微笑むと、鍵盤に手を置きピアノを弾き始めた。
私達は近くにあった椅子に座ると、瞳ちゃんの弾くピアノを黙って聴いたーー。
その音色はとても穏やかで優しく、私は気付くと涙を流していた。
久しぶりに聴けた瞳ちゃんのピアノに、嬉しく思う気持ちと同時に何故か悲しくもなったのだ。
高校生になって皆バラバラになってしまったから……。懐かしい昔に思いを馳せ、きっと寂しくなってしまったのだ。
隣で涙を拭う私を見て、大ちゃんは少し寂しそうな笑顔を見せる。心配させたくなかった私は、涙を拭き終わるとニッコリと笑って大ちゃんを見た。
それに安心したのか、大ちゃんは優しく微笑むと瞳ちゃんへと視線を移し、そのまま演奏が終わるまで私を見る事はなかったーー。
ーーーパチパチパチパチ
拍手をしながら感謝を伝えると、瞳ちゃんは「どういたしまして」と優しく微笑む。
困った様に微笑む大ちゃんに諭され、私は後ろ髪引かれる思いで椅子から立ち上がった。
そう言って私達が手を振ると、少し不思議そうな顔をした瞳ちゃんが小さく手を振り返してくれた。














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。