音楽室を後にした私達は、再び並んで廊下を歩いて行く。
古びた木造建ての校舎は所々が脆く崩れ、窓からは隙間風が吹き込んでいる。そんな老朽化の進んだ校舎でも、私はとても好きだった。
特に、歩く度に軋む廊下が私のお気に入り。
(この学校が無くなってしまうなんて、やっぱり凄く寂しいな……)
隣を見ると、そう呟いた大ちゃんが寂しそうな顔をする。
大ちゃんも同じ思いでいてくれたんだと、少し嬉しく思いながら返事をする。
溢れ出た本音に、ハッとして大ちゃんを見る。
辛そうな表情で見つめてくる大ちゃんに目を逸らせなくなった私は、そのまま黙って見つめ返した。
今にも泣き出しそうな顔をする大ちゃん。そんな姿に焦った私は、慌てて笑顔を作ると口を開いた。
決して大ちゃんを責めている訳でもなければ、こんな辛そうな顔をさせたかった訳でもない。
何とかこの空気を変えようと、私は焦りながら思案する。
目に付いた少し色の変わった壁板に近付くと、そのままその場にしゃがみ込む。
壁の下側にある色の変わった五枚分の板。
ニッコリと笑って振り返ると、大ちゃんは笑顔で口を開いた。
私の隣にしゃがんだ大ちゃんは懐かしそうに壁に触れた。
昔はこの板を軽く叩くと簡単に外れ、外へ通じる穴となった。
ここは、大ちゃんの秘密の近道。先生に見つかっては怒られ、それでも暫くするとまた大ちゃんはここを使っていた。
『今日も見つかっちゃったよ』と悪びれた様子もなく笑顔で話していた大ちゃんを懐かしく思う。
クスクスと笑いながら話す大ちゃんを見て、和やかな空気に戻った事に安堵する。
立ち上がって窓の外を見る大ちゃんを追って隣に立つと、私は夕陽に染まった空を眺めた。
そう促された私は、笑顔で頷くと大ちゃんと並んで教室へと向かう。
隣を歩く大ちゃんが、突然そんな質問を投げかけてくる。
(……何で? 何でだかわからないけど……)
夕陽に染まった大ちゃんの横顔は、少し悲しそうに見える。……そんな気がした。
教室の前まで着くと、開けたままの入り口を潜ってそのまま教室へと足を進める。
先程私が座っていた席に腰を下ろした大ちゃんは、椅子ごと後ろへ向くと目の前の机をトントンと叩いた。
大ちゃんに言われた通り、私は黙って後ろの席へと座る。
私と目を合わせた大ちゃんは、優しく微笑むと口を開いた。
何だか先程から少し様子のおかしい大ちゃんに戸惑う。
素直な気持ちを伝えると、大ちゃんは少し悲しそうに微笑む。
(まただ……)
先程から、時折見せる悲しそうな顔。
(私が、何かしてしまったのかな……?)
言いようのない不安に、緊張した私は震える声で口を開いた。
一瞬驚いた顔を見せた大ちゃんは、悲しそうな顔をして私を見つめる。
私の質問に、ただ黙って悲しそうな笑顔を向ける大ちゃん。
一体何だというのか……。
大ちゃんをこんなにも悲しそうな顔にさせてしまっているのは、本当に私のせいではないのだろうか?
拭えない不安に、私まで悲しくなってくる。
突然聞こえた声に目を向けると、教室の入り口にめぐちゃんが立っていた。
そのまま教室へと入って来ると、私達の目の前でピタリと足を止めためぐちゃんは心配そうな顔をして口を開いた。
大ちゃんが小さく微笑んで答えたのに対し、私は黙って首を横に振って応えた。
少しの沈黙の後、そう言っためぐちゃんは目の前の机に封筒を置いた。
目の前に置かれた封筒には、【大ちゃんへ】と私の字で書かれている。
先程開けたタイムカプセルに入っていた手紙を、わざわざ届けにきてくれたのだ。
めぐちゃんにお礼を告げると、私は封筒に視線を移した。
これを読まれてしまえば、私の気持ちが大ちゃんにバレてしまう。
好きだと伝えたい気持ちと恥ずかしさで、私は大ちゃんの顔を見る事ができずに俯いた。
大ちゃんの言葉に安堵した私は、肩から力が抜けてゆくのを感じた。いつの間にか、緊張で肩に力が入っていたようだ。
頭上からの声に顔を上げてみれば、そこには怪訝そうな顔をしているめぐちゃんがいる。
私はめぐちゃんの口元を見つめると、ゆっくりと開かれる口の動きを目で追った。














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!