僕は微笑んで言った。
その言葉を聞いて死神さんは口角を上げた。目は見る事が出来ないが笑っていると思う。
僕はそれを聞いて勝つ事を確信し、彼に近づき蹴りかかり、蹴ると、直ぐに死神さんから離れた。
まだ…気づかないのか。
僕は彼の背後に回り、彼を後ろから殴り飛ばした。
死神さんから出ていた殺気は喜びを表すものから怒りの感情に変わり、僕にのみ向けられた。
睨み付ける死神さんの赤い目…。
あぁ…僕はきっと今の彼には勝てないだろう。
さっき、本気で殴ったのに彼は無傷だ…。
まるで、飢えた狼のごとく本能むき出しで襲いかかってくる死神さん。
あぁ…このままだと死ぬかも。
…このままだとね。
挑発しといて良かった。
《バキンッ》
死神さんの持っていた鎌が声が聞こえたと共に折れ、僕は助けが来た事を認識する。
助けに来てくれた声の主は僕の前に立って言う。
声の主の顔を見て驚く死神さん。
死神さんが話している事など問答無用で死神さんを蹴り飛ばす、もう一人の助っ人。
僕を更に怖い表情で睨み付ける死神さんはきっと「負け」というものを感じとっているだろう…。
僕が煽った事によって、彼がどう足掻いても勝つ事の出来ない2人の人物の到着に気づかず僕にばかり注目していた…。
だから、彼はもう勝つ事が出来ない状態に追い込まれてしまった。
死神さんはそれを認めたくないだろう…。
彼は誰よりも負けず嫌いだ。
でも、「負けの事実」に変わりはない…。
彼はやむおえず仲間を呼んだ…。
彼の相棒を…
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!